豊島逸夫の手帖

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金からダイバーシティへ

2014年5月14日

TPPで関心を集める貿易政策。その理論的根拠は、国際経済学の「比較優位の原則」という貿易理論だ。先進国は比較優位を持つ資本・技術集約型の産 業に特化し、一次産業などは発展途上国に譲れば世界経済のパイは大きくなる。貿易による互恵関係が基礎になっている。とはいえ、比較劣位の産業を手放すこ とには痛み(過渡期の失業)をともなうので、各国国内には反対論が根強い。


実は、この比較優位の原則は、夫婦関係にもあてはまる。夫が家事・育児にたけていて、妻は職場で才能を開花させるタイプであれば、「夫婦の戦略的役割交換」による互恵関係が成立する。TPPと異なり、既得権益のしがらみもない。夫の割り切り次第である。
今でこそ、こう書いているが、筆者は特にダイバーシティを意識する上司でもなかった。
しかし、スイス銀行の外国為替貴金属部で貴金属のチーフディーラーを張っていたとき、部下のアシスタント・ディーラーは全員女性であった。
その時にはダイバーシティまで考えるほどの心の余裕はなかった。毎月のノルマ達成のため必死に優秀な人材をリクルートしたら、結果的に女性ばかりになった だけの話である。トレーダーの資質に性別はない。男性でも女性でも、胆力が強い人が向いている。知り合いの優秀な女性トレーダーにこんなエピソードがあ る。健康診断で腹部に影が認められ、あわてて要精密検査に行ったところ、単に肝臓が人並外れて大きいだけのことであった。肝臓が大きければ、ストレス・ア ルコール吸収能力も高い。
ただ、結果的に優秀な女性スタッフに支えられたので、スポンサーシップを自分なりに実践するようになった。その過程で採用した女性のひとりは、日本証券アナリスト協会初の女性理事に選ばれている。


独立した後は、アジアを飛び回っているが、日本よりアジアのほうが、ダイバーシティは進んでいるように思える。


・SGX(シンガポール証券取引所)で金ETF(上場投資信託)上場に駆り出されたときは、SGXのチームは3名が全て若手の女性。権限も現場にかなり委譲されていたので話は早かった。


・上海で会った中国人民銀行の外為シニア・トレーダーは3人ともアラサ―女性。一見、普通のOLさんにしか見えない感じであったが、北京―上海のフライト満席とのことで、夜行列車で来たので、朝一でお化粧直ししている姿がなんとも微笑ましかった。


・その人民銀行との公式晩さん会で同席した局長さんが、50代の女性。いでたちは地味で商店街で見かける中年主婦のようなイメージであったが、最後 の中締めの段で司会から指名されるや、背筋をピッツと伸ばし、目をカッと見開き、あたかも北朝鮮のニュース・キャスターのごとく急変したものだ。


・上海の取引所ナンバー2も女性であった。


・お手伝いしてきた中国大手銀行の貴金属部も、リーダー格はアラフォー女性。キリッとした物腰でテキパキ仕事をこなしていた。


ところが、帰国して日本で仕事を再開すると、有能な女性たちが社内の男性からの「妬み」とか、保育所など社会福祉インフラの欠如と戦っている。
若くして抜擢されれば、男性陣から「可愛がり」と称する難題を回される洗礼を受ける。夫の外国赴任でやむなく社を去る優秀な女性社員の話も良く聞くところだ。
「特技は部長職」というような高給取りの男性幹部が組織のメタボ体質を産み、さらに、同僚男性が足を引っ張り、引きずりおろす。
アジアで一緒に仕事した女性たちは、女性間の実力競争で戦っていた。日本で一緒に仕事している女性たちは、男性の嫉妬と戦っている。


話は飛ぶが、仕事柄セミナー講演が多い。そこで、最近思うことは、会場施設として授乳設備やキッズルームがあれば、赤ちゃん連れの若夫婦も参加できて、参加者の裾野が広がるということだ。最新のセミナー会場でも、そこまでの配慮は思いつかなったと見られる。
ちなみに、赤ちゃんは泣く。そこで、セミナー講演中に「夫婦の戦略的役割交換」現象が起きる。ロビーに出て赤ちゃんをあやすのは、まず例外なく「イクメン」たちなのだ。その間、妻は会場内でひたすらノートにメモを取り続ける。


このようなさまざまな体験から、豊島&アソシエツは、今回、ワーママのオピニオン・リーダー的な存在でダイバーシティの専門家でもある治部れんげ昭和女子大研究員を副代表として迎え、女性関連分野でも様々な提言を行ってゆく体制を敷くまでになっている。

2014年