豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. どこまで続くか、2015年の円安トレンド
Page1744

どこまで続くか、2015年の円安トレンド

2014年12月8日

円安ペースが制御不能になってきた。
通貨投機筋は、円を売っては、買戻しのサイクルを繰り返し、いわゆる売買回転が効いている状態になっている。実需の輸入サイドは、投機筋が設定した新たなレンジの中で、ドルの手当てを強いられる。「実質実効為替相場」は約42年ぶりの弱さになっているので、理論上は、いずれ円高方向に調整されるはず。しかし、それがいつになるやもしれず、実需筋は待てない。
かくして投機筋が主導権を握ると、円相場は、理論上の需給均衡点を無視してオーバーシュートしがちだ。

異常なペースで進行する円安は、どこまで続くのか?
米雇用統計発表が終わったところで、週末にNYのヘッジファンドたちと電話会議をやったが、この議論が多かった。
例えば、円相場130円と日経平均20000円をセットで見ている。
筆者も見解を尋ねられた。
結論からいうと、ベースシナリオを130円に置いているが、リスクシナリオとして140円もあり、と見ている。但し、その場合の円高揺り戻しも大きく、結局2015年大晦日は120円台の振り出しに戻る可能性がある。
その実例が、消費増税翌年の1998年に起こっている。
その年、通貨投機波状攻撃の結果、8月11日に147円をつけた円安の流れが、ロシアのデフォルトなどで一転、円キャリーの巻き戻しに変わった。更に、大手ヘッジファンドLTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)破たんの衝撃により、同年10月6日には131円、翌7日には123円、翌々8日には118円と円が暴騰劇を演じた。
結局、この年は、1月2日に132円で始まり、大晦日には113円で終わっている。

その1998年と2015年は経済環境に類似点がある。
日本側では、1998年の前年には橋本内閣が消費税を3%から5%に引き上げていた。日銀は量的緩和ではないが、金融調節のための輪番オペによる国債買い付けを強化させていた。
いっぽう、2015年の欧米市場は、ヘッジファンドが円キャリーを膨らませる可能性が強い。既に、NY市場では、円を調達通貨として米国株を買うような動きが見られる。
更に、原油急落とウクライナ情勢により、ロシア経済が再び危機的状況を迎えている。

いっぽう、1998年と2015年との最大の違いは、日米ともに未曽有の量的緩和を導入したこと。米国はその出口に立つが、日本は追加緩和も辞さずの構えで、金融政策の方向性に決定的な違いが見られる。更に、日本の貿易収支は赤字傾向に転じている。
従って、構造的に円安継続の方向性に変わりはなかろう。
黒田日銀総裁は、最近円安けん制気味の発言に転じているが、ヘッジファンドは、誰もそれが本音とは思っていない。足元で消費者物価上昇率が低迷しているからだ。

しかし、円安進行の過程で、ボラティリティーは高まろう。
官主導相場に投機マネーが乗り、マーケットの価格変動を増幅させる構造は1998年当時と変わっていない。そこに原油価格波乱が拍車をかける。
イエレンFRB議長も、みずから「金融正常化のプロセスでボラティリティー(価格変動性)は上がる」と明言している。それゆえ、フィッシャーFRB副議長に、バブル対策委員会のような任務を託しているほどだ。
外為市場では、ドル一人勝ちといわれるが、潜在的ドル安リスクもかかえるので「ドル高なれどドル不安」という状態となろう。為替はドルと円など通貨間の相対評価の世界ゆえ、今ドルを買っている投資家が、安心してドルを買っているわけではないのだ。ドルのほうがマシだから買われる、というのが実態であろう。
潜在的ドル安リスクとしては、賃金もインフレ率も上昇が鈍く、利上げが先送りされるケースが考えられる。更に、先送りされてきた米債務上限引き上げ問題が、オバマ大統領と共和党のネジレにより再燃しそうだ。
ワイルドカードとして、中国経済変調によるリスクオフのシナリオにも目配りが必要だ。

かくして2015年の円相場は、基調円安なれど乱気流が予想され、投資家のリスク耐性が試される年になりそうだ。

さて、足元では金が1180ドル台に下落して、プラチナは1220ドル台という展開になっている。ジワリ、金プラチナの価格スプレッドが拡大中だ。
但し、引き続き、円安の影響が色濃い。
週末の日経マネーセミナー大阪篇でも、寄せられた質問の多くが、円安に関するものだった。
ブログ読者も多数参加していたので、講演後、協賛社の新車展示の周りで、東京会場同様に、質疑応答やった。(それにしても車のメーカーが経済セミナーのスポンサーというのも珍しい。)
困ることは「金は今買いか」と聞かれても、その人の資産規模とか目的を聞かないと一般論として答えられない。
おカネに余裕ある人が短期の値幅取りで金を買いたいというのであれば、それはちょっと待て。それであればプラチナのほうが良いと答える。
一方、普通のサラリーマンが金を買いたいというのであれば、今が長期的には底値圏だから、こつこつ買い始めることを薦める。
若い人で、財産の殆どを金で長期保有したい、と入れ込んでいる場合には、せいぜいポートフォリオの10%程度の抑えておけ、と諭す。(でも、入れ込んでいる人は、神妙に聞いているけど、きっと、どんどん買い続けるのだろうね~ (笑)。それが人の業というものだ。)
金は株や債券と同時に保有してこそ味が出るもの、という鉄則は忘れないでほしい。

そして、週末には、私にとってビッグ・イベント発生!

添付写真見て!

2014.jpgガーラ湯沢に一晩でドカ雪!!
こんな光景をFBの写真で見せつけられると、またまた、仕事などしている場合ではない、と思うのだ。
と言いつつ、この写真って、今の投機的円売りポジション急増をイメージさせる、とも感じた。どこかで臨界点で表層雪崩は来る。
今の円売りヘッジファンドって、ドカ雪の後、雪崩注意報発令の中で、スキーしているようなものだよね。

2014年