豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 日米欧中銀の本気度を探る市場
Page1692

日米欧中銀の本気度を探る市場

2014年9月12日

NY最初の訪問は、ローワー・マンハッタン。911の半旗が翻るオフィスビルの一角で、旧知の複数の年金運用担当者と「お茶」をした。筆者がカルパース(カリフォルニア州職員共済年金基金で運用資産規模は米国最大)元CEOのもとで6年ほど働いたときに知り合った。ホットマネーの対極にあるリアルマネーの典型のような人物たちだ。

話題はいきなり、「黒田氏の本気度」から始まった。おりしも円売りが過熱する中で、黒田日銀総裁の「物価目標達成のため、追加緩和だろうと何だろうとちゅうちょなく調整する」との発言が市場に流れ、米国主要経済紙にも黒田氏インタビュー記事が掲載されていたからだ。
欧米市場で今や伝説の発言となっているドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁の「なんでもやる」発言を連想させ、円売りの火に油を注ぐ如きインパクトがあった。
中銀主導のマーケットゆえ、市場関係者は日米欧主要中銀トップの本気度を探っている。
ドラギ氏の本格量的緩和導入示唆は、いつもの口先だけの「ドラギ・マジック」なのか。それとも今回は本気なのか?
黒田氏の上記発言は、追加緩和への本気度を意図的ににじませたコメントなのか。
そして、イエレン氏は、9月16-17日のFOMCにて、早期利上げの本気度をFOMC声明の文面ににじませるのか?
ドラギ氏とイエレン氏には本気度を感じ、ユーロ売り・ドル買いに走ったが、1.30の大台を割れたところで下げ止まった。
そこで、残るは黒田氏の本気度が?とされてきたところの今回の発言ゆえ、足元で主要三通貨の間では円独歩安となったのだ。

ホットマネーは水を得た魚のごとくアドレナリン全開で売買を繰り返している。今年に入り外為市場でのこう着感が長く、ディーラーたちも干上がっていたからだ、11日のNY市場でも30分程度で107円20銭から106円70銭まで急落する局面も示現するほど、ボラティリティー(価格変動率)が戻ってきた。ドル円に関しては、円を売って、下がったところで買戻し、その結果、円が反騰したところで再び円売り攻勢をかける、という具合に「売買回転」が効いている。これがモメンタムと呼ばれる現象の実態だ。今回の円売り攻勢も「賞味期限」は9月17日のFOMC終了までと割り切っている。
売る通貨なら、スコットランド独立問題に揺れるポンドやルーブルを含む新興国通貨など、いくらでもあるといわんばかりだ。

しかし、年金などのリアルマネーの関心事は、そのドル高の背景にあるドル金利高にある。なんせ、殆どの市場関係者が、2014年初のベースシナリオとして、テーパリング終了の年ゆえ、米10年債利回り3%-3.5%を予測し、ほぼ全員が外した。
直近では一時2.30%にまで下がったので、現在の2.5%台回復は「急騰」と表現されるが、それでも3%にはほど遠い低水準だ。テーパリングの年に金利が下がるという「債券パラドックス」に市場は戸惑っている。大きく外した後ゆえ、予測と問われても腰がひける。

マネーの流れも、年初語られた債券から株への「グレート・ローテーション」が一時逆流したが、NY株の高値警戒感から、再び債券のイールド・ハンティングに転じた。
イージーマネー(緩和マネー)の時代は終わったとも言われたが、FRBが市中の過剰流動性を回収するプロセスは「未体験の壮大な実験」だ。急激なFRBバランスシート圧縮は、緩和マネー依存症の市場にショック効果を与えかねない。
緩やかな「出口戦略」となり、2018年以降にまでずれこみそうな様相である。その間、日銀もECBも「なんでもやる」モードで量的緩和やTLTRO(ターゲット型資金供給)などを通じてマネー供給を加速させることになろう。
こうなると、いわゆる「過剰流動性相場」の終焉はまだ先のことゆえ、マネーが世界の徘徊し、あらゆる投資媒体を貪欲に循環物色する動きは当分続きそうだ。

米国の利上げも、80年代以来最も長期間にわたる低位でのプロセスとなろう。まずは2015年末でも、せいぜい1%ゆくか否か。その後2-3年かけて3%程度に段階的に引き上げてゆくシナリオが有力視されている。バーナンキ氏などは、自由の身になった気楽さで、「自分の生きているうちに4%を見ることはないだろう」と語っている。4%といえば、これまでFRBが目標値として意識してきた水準だ。
その低水準のレンジの中の金利差で為替は動いている。
足元では米国債が売られドル金利が「急騰」している。しかし、米国債市場なしでは、中国・日本などの巨大な貯蓄のプールの受け皿はない。ウクライナ・イラク緊迫で「安全性を求めるマネーが米国債市場へ流入」とか「質への逃避」などと言われるが、リアルマネーの視点では、巨大な米国債市場への「流動性への逃避」なのだ。
ゆえに金利差による円安構造は不安定である。

なお、リアルマネーは日本株への目配りも怠らない。やつぎばやに「消費増税後の日本経済」「安倍改造内閣」について質問された。米国の利上げリスク、欧州のデフレ・リスク、チャイナ・リスクにジャパン・リスクを天秤にかければ、かなり拮抗している。運用がリスク・ウエイトを重視するスタイルに変化したので、米国サイドからみた「国際分散」が明らかに深化していることを現地で改めて感じた。

金に関しては、NYは圧倒的に弱気が支配。なんせドル全面高だからね。
1230ドル台まで下がった。
でも積み上がった先物の金売りポジションを見ると、早晩買い戻されるは必至ゆえ、中期的には金に強気になる。
そしてパラジウム・バブル崩壊。830ドルまで下落中。
明日、NYMEXに行く。かなり損失でけが人出ている。

いま、日本時間9時。これからヘッジファンドの連中とディナー。

1692.jpg

2014年