豊島逸夫の手帖

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明日、日経CNBC Web生番組で1時間語ります!

2014年4月7日


「日経が書いたら売りか!?」(笑)というテーマで、日経CNBC のWeb番組で1時間タップリ語ります。例によって、ぶっつけ本番。ぶっちゃけ本音トークだよ。↓
http://www.nikkei-CNBC.co.jp/
4月8日20時から21時まで。


最近普及しつつあるテレビ局のWeb配信で、会員制なのだけどね。


さて、今日の本題の見出しは「雇用統計をも翻弄する超高速度取引」


今の市場を飛行機搭乗口に例えれば、「優先搭乗ライン」と「一般客用ライン」の二重構造になっている。超高速取引のソフトウェアとハードウェアを持つプロと、スマホを唯一の武器に挑む個人投資家の「情報格差」は広がるばかりだ。
日経コラムでも2013年9月25日に「7ミリ秒の疑惑、FOMC声明文が事前漏洩か」と題した原稿を載せた。
同9月18日に、米国東部時間午後2時にワシントンの米連邦準備理事会(FRB)で発表された「緩和縮小延期」声明が、7ミリ秒(7/1000秒)以内にシカゴに伝わり、金売買が成立していた、とシカゴの調査会社が指摘した件である。
「高速通信を駆使してもワシントンからシカゴまで7ミリ秒以内で情報を伝達することはできないはず」と書いたが、実は、今や、ミリ秒からミクロ秒(一秒の 百万分の一)を争うレベルまで進化していた。高速度取引の世界は、高速度通信ネットワーク技術と設備投資というハードウェアと、アルゴリズム取引ソフト ウェアの競争なのだ。その競争の先端をゆく会社がシカゴに多いので、ワシントン発の情報がまずシカゴに伝わり、数ミクロ秒の情報アドバンテージ(優位性) を利用して裁定取引で儲けるケースが生じるのだ。会社といっても、ビルの一フロアで社員は数名。しかし、ネット設備は最先端という例も多い。筆者が訪問し たところは、数百万ドル(数億円)を投じたオーナー(元大手投資銀行幹部)と、金融には素人の30代前半のハーバード理系卒システム・エンジニアが、ネッ ト機材に囲まれて売買していた。


一方で、大手の高頻度取引会社や投資銀行は高速度取引を駆使して、いち早く情報に反応して売買ポジションを構築したうえで、若干のマージンを上乗せして顧客にビッド(買値)或いはオファー(売値)を提示する「薄利多売」方式で収益をあげる。
大量発注する機関投資家のバイサイド(顧客側)では、取引コスト低減として歓迎される。
しかし、バイサイドが投機目的の場合は、荒っぽい「急ぎばたらき」で場に出ている売り注文あるいは買い注文を瞬間的に根こそぎ全て持ってゆくので、マー ケットのボラティリティー(価格変動性)を増幅させる。(掃除機に吸い込むイメージからスイープ=sweepと呼ばれる。)


先週から突如、高速度取引問題が再燃しているのは、「60ミニッツ」という米国テレビ番組で、「フラッシュ・ボーイズ」という関連ベストセラーが取 り上げられたことが発端だった。その著者がNY株はrigged(操作)されているという表現を使ったことで、その発言だけがヘッドラインでメディアに拡 散している。
更に、大手高速度取引会社のヴァーチュ・フィナンシャルは上場を目指し、目論見書の中で「1238日の営業日で損を出したのは1日だけ」と述べている。
一方で、「情報格差」を利用する行為がインサイダーに抵触する可能性も指摘されFBI, SEC(米国証券取引委員会)、そしてNY州検察当局も調査に乗り出している。


なお、冒頭に引用した本欄記事では「大手通信社が特別会員にミシガン大学消費者信頼感指数を午前10時の正式発表より早く午前9時54分58秒に伝 え、普通会員でも午前9時55分には、そのデータにアクセスできる」と書いたが、この「商習慣」は自発的に廃止されることになった。
とはいえ、今年に入ってからも、企業の四半期決算がNY証券取引所大引けの現地時間午後4時に発表され、その瞬間にミクロ秒単位の時間で売買が成立していた事例などが指摘されている。


この高速度取引の支持論は、「市場の流動性を高める」との論旨で、取引所側に強い。
反対論は当然個人投資家に目立つ。
更に、「価格の乱高下要因」なのでプロ泣かせでもある。
金市場のプロ3人の座談会で、昨年の金暴落を3人とも予測できなかったことの反省会をやった。結論は、プログラム売買が力づくで下値抵抗線をブレークした ことで、ストップロスの売りが自動的に発動され、更に、ストップロス売りの連鎖を引き起こしたという現象。その可能性を事前に見抜けなかったという反省で あった。
マーケットは、力づくでも一旦抵抗線を破られ大きく変動すると、それが既成事実となり、うむをいわせず、異次元のレンジにシフトする。


最近の例では、短期的値動きだが、イエレンFRB議長が記者会見で「緩和縮小終了から利上げまでの時期は6カ月」と口走った瞬間に、ドル円が101円70銭から102円70銭まで円安に振れた。
先週金曜日の米雇用統計発表直後には、瞬間的に、104円10銭まで円安に振れたが、次の瞬間には103円60銭まで円高に振れている。
これは、非農業部門新規雇用者増が19万4千人という「グッドだがグレートではない」という数字だったので、コンピューターの売買指示が割れたゆえの現象 であろう。その後、市場が冷静になるにつて、日米金利差縮小というファンダメンタルズが意識され、円高に動いた。NY株も、発表直後は雇用統計好感で買わ れたが、IT株ミニバブルの巻き戻し的なヘッジファンド売りで値を消した。ここでは、モメンタム(勢い)買いで急騰したIT関連株に対して、プログラム売 買がリバランス売りの指示を出したことが指摘される。


高速度売買とうまく付き合ってゆかねばならない時代になったことを実感する。短期取引ではコンピューターの速度には勝てない。しかし、売買プログラムを作成するのも人間。そして、どのプログラムを使用するか、決定権も人間が持つのだ。
尚、金市場は雇用統計を悪いと読んだようで、他市場とは異なり、いきなり急騰してそのまま1300ドル台回復で引けた。まぁ、ここが当面のアタマだろうね。典型的ショートカバー・ラリーだから。
プラチナは引き続きホールド。

2014年