豊島逸夫の手帖

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ウクライナ上空のマレーシア機撃墜で有事の金買い

2014年7月18日

NY金市場に、ウクライナ上空と見られる空域でマレーシア機が撃墜の可能性が流れた瞬間に、アルゴリズム取引により、金は瞬時に1300ドル台から1320ドル台に約20ドル急騰した。

その後も、円、米国債とともに、安全資産として買われている。

今回は、全く想定外の「ブラックスワン」的なイベントリスクの突然の浮上だ。

しかも、この事件直前まで、欧米市場は、米国のロシア制裁強化の要因でリスクオフに転じていた。ロシア主要企業に対して、債券市場へのアクセスを禁じ、資金調達の道を絶つ新たな制裁措置であった。ロシアからの報復措置として、ロシア国内の米企業保有資産凍結の観測も流れていた。

従って、ウクライナでのマレーシア機墜落と米の対ロ制裁強化の二つのイベントリスクの共振現象となったのだ。

ゆえに、「有事の金買い」に伴う市場の緊張感にも、近年みられなかった切迫感が感じられる。

更に、ロシアが世界最大の生産国であるパラジウム(自動車排気ガス清浄化触媒に使われる貴金属)の価格も880ドル台にまで急騰。900ドルの大台が視野に入ってきた。

なお、その後、第一報が流れてから、金市場内では、冷静に事態の分析が始まった。

―ミサイルが発射されれば、人工衛星から発射の際に発する熱の特徴を分析できる

―33000フィート上空での出来事ゆえ、レーダーの電子イメージ分析が重要だ

―マレーシア機の乗客名簿の徹底的な精査も必要。

これらのハードな証拠が確認されるまでは、市場内に様々な憶測が流れよう。

その一つが、インターファックス通信が報じたことだが、プーチン大統領がブラジルでのBRICs会議からの帰国途上にあったこと。大統領機とマレーシア機に相似点が見られるという憶測だ。しかし、33000フィート上空の機体を判別するのは極めて困難ゆえ、この説は確固たる根拠に欠ける。

今後、冷静な情報精査には時間を要するので、その間、マネーは米国債、円、金に逃避して、様子見に徹するであろう。

イエレン議会証言に大きなサプライズはなく、リスク選好度が徐々に戻りつつあった市場の、まさに頭を叩くようなインパクトであった。

ドル円も200日移動平均線近辺をさまよっていたが、この突発的リスクオフ状況により、当面、円の高値を模索する展開になりそうだ。

米国10年債利回りも2.4%台にまで低下した。低金利傾向を更に固めるような展開だ。

総じて、市場の関心が、イエレンFRB副議長からウクライナに急転換している。

金価格は1300ドル割れで先物の売りが増えているときの「ウクライナ有事勃発」なので、まずは、買戻しが先行。それが一巡すると、フォローの新規買いが出るか否かは、今後事態の全容が明らかになってからとなろう。

2014年