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ヤフー在宅勤務禁止論争、日本の企業風土では?

2013年3月4日

ヤフーのメリサ・マイヤーCEOの在宅勤務原則禁止通知についての賛否両論議論が連鎖的に拡散している。
グーグルからリクルートされた37歳の女性CEO。就任直後にいきなり妊娠発表。しかも、無料昼食やスマホ無料供与などの従業員優遇策を相次いで実施。そのCEOが、唐突に、「在宅勤務禁止」メールを人事担当者名で全社員に流したので、特に意外感が強かった。
転送禁止とされた社内メールには、こう書かれている。
「この数か月、様々な従業員優遇策を導入してきた」と前置きしたうえで、「最上の職場になるためには、コミュニケーションとコラボレーションが大事。ゆえに、我々は、サイド・バイ・サイド(机をならべて)働く必要がある。社内に居ることが肝要なのだ。ベストの決定や見解は、社内の廊下や社員食堂での、新たな人たちとの出会いや、即席チーム・ミーティングから生まれることもある。在宅勤務だと、スピードと仕事の質がしばしば損なわれる。我々は、一つのヤフーにならねばならぬ。そして、それは物理的に一緒に居ることから始まるのだ。
この6月から、在宅勤務の全ての従業員にヤフー社内で働くことを求める。もし、あなたがその対象であれば、既に人事から連絡が行っている。その対象外の人たちも、たまに、自宅のケーブルテレビ修理を待たねばならぬときは、コラボレーションの精神で、最善の自己判断で臨んでほしい。」と書かれている。
これに真っ先に反論したのが、英ヴァージン航空創業者のブランソン氏。
同氏のブログを覗くと、こう書かれている。
「他人と働き、成功するには、お互いに信頼せねばならない。社員がどこにいるか監視せずに信用して仕事を進めることだ。権限移譲が『アート』ともいえる。
社員が社内のデスクにいようと、自宅の台所にいようと、自由に働けることで、やる気も出て、実績も良くなると期待できる。
それだけに、ヤフーの今回の決定は理解に苦しむ。後ろ向きの決断だ。仕事はもはや9時―5時ではない。」
同氏以外にも多数の議論が噴出している。総じて、社員の立場からは、勤務の柔軟性を求める声が圧倒的に強い。
また、在宅勤務だと社内から隔離され、たこつぼ状態(英語ではサイロ状態という)になりがちなので、社員同士が社内facebookで一体化を図っている例などが紹介されている。なかには、バーチャル・ビアホールを有志で立ち上げたエピソードもあった。在宅勤務者と社内勤務者がアフター・ファイブにスカイプなどをつなぎっぱなしにしたまま自室でビールを飲みつつビデオ会議形式で語り合うというもの。
しかし、社内で立身出世を目指すと、やはり直接的人的関係の蓄積は欠かせないようだ。スタンフォード大学が最近発表した調査によると、在宅勤務者の労働生産性は高いが、社内勤務者に比し、昇進の確率が50%も低いという。キャリア面では、ボスとの対面時間が少ないことが昇進を遅らせる。上司との結びつきの面で、在宅勤務者は「忘れられた存在」になりがちなのだ。会議で参加者を惹きつける振る舞いや、困難に直面したときの現場での対応ぶりが評価されるもの、と調査を担当した同大学教授は語っている。

以上は米国の話であるが、日本の企業風土ではどうだろうか。
最近、在宅勤務は増えているものの、やはり圧倒的に「社内会議重視」傾向が支配していると感じる。午後8時過ぎても、上司や同僚が残業していれば、退社しづらい雰囲気は変わらない。
更にコンプライアンス重視の結果、社外への情報流出リスクを恐れ、在宅勤務も実質的には不可能という企業・職種も多い。
例外的存在は、概して昇進はあきらめ、割り切ってWLB(ワーク・ライフ・バランス)を求める社員たちであろうか。
もし、「出社に及ばず、在宅勤務可」と言われれば、それは「窓際への移転」を意味する。
日本の場合は、社内勤務偏重の企業風土だ。米国は、在宅勤務が一般化したうえで、その反省からヤフーなどが社内勤務に回帰してきている。(なお、業種により在宅勤務の可否が異なることは共通であろう。)
アベノミクスの成長戦略議論でも、無駄な会議時間を減らし、プライベートタイムに内需に貢献する消費活動ができる企業文化的変革を考えてもよかろう。

さて、インドの金関税再引き上げ(6%→12%)が回避され、現地市場はホッと一息のよう。しかし、政府は経常収支赤字削減のため、国民に金購入を控えるように訴えている。世界一の金消費国インドでは、金が主要輸入品目であるからだ。
しかし、インドの場合、金輸入規制に動くと、ドバイ経由の密輸が増えるだけ、という事情もある。
あのインドの長い海岸線をパトロールすることは不可能だからだ。
足元では、ルピー高でインド国内価格も割安になり、ドル建て価格水準も下がったことで、徐々に、現物買いが出てくるだろう。未だ爆発的現物買いとはなっていないが。

最後に、旬の赤貝の写真。
3月の丁度、子を持つ前の赤貝が旬の食べ頃。ほのかに海の香りがして、ふんわりした食感だけど、しゃきしゃきしていて絶品。
なんでもそうだけど、旬のものが一番だね。

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2013年