2013年10月18日
米国財務上限引き上げのドタバタ劇は、4か月の執行猶予つき合意で収束した。
市場の不安感を表わすVIX(恐怖指数)も一時は22.72まで急騰したが、17日には前日比8.36%ダウンの13.38まで下落している。
しかし、長期的には米ドルへの信認は今まで以上に傷ついた。「ドルへの不信任投票」ともいえる「金買い」が急増し、17日の欧米市場では金価格が3%以上急騰。再び1300ドルの大台を回復している。
米国債を大量に保有する日本・中国・中東などの公的機関や機関投資家も、長期的には米国債からの運用分散を模索するだろう。
そして、市場のテーマは米財政政策からFOMCやイエレン新体制のFRBなど米金融政策に戻った。
9月FOMCでの量的緩和縮小延期決定は、「市場とのコミュニケーションが稚拙」と批判されたが、今では、見直されている。もし、金融面で緩和が縮小され、財政面では米国債デフォルト懸念が重なる状況が示現していたら、市場の危機感は増幅されたであろう。
当面、金融政策は緩和、財政政策は緊縮のポリシー・ミックスの継続は必至だ。
なお、今回の米国財政を巡る市場の混乱は、日本にとっても教訓となった。米国は「債務上限法」という「サーキット・ブレーカー」が作用し、更に、政府機能一時閉鎖で市民生活にも直接的影響が及んだので、国民も財政に対する危機感が強まる過程で、その痛みを共有することになった。
しかし、日本では、その「痛み」の感覚が未だに希薄ゆえ、アベノミクス第四の矢ともいわれる「財政再建」問題に対する健全な危機感も薄い。
消費増税という「痛み」は課せられるが、「増税」に対する本能的拒否反応だけが先行する傾向が顕著である。
いっぽう、政治面では、ねじれ国会が解消されたことで「決められる日本」と、「決められない米国」の差も鮮明となった。
オバマケア(医療保険改革)を人質にとり、財政危機が危険な瀬戸際政争のツールとして利用される状況は、米国民の反感を買った。
この日米政治安定度の相対的温度差が、米デフォルトが回避された直後から、短期的にドル安・円高に転じた背景のひとつとも言えよう。
とはいえ、ドル円については、ドル高の底流も変わらない。米国量的緩和縮小から引き締めへの転換という長期的方向性は不変である。
しかし、冒頭に述べた如く、米ドルへの信認が傷ついたことで、「ドル不安」は強まる結果になっている。
それでも、外為市場は通貨価値の相対評価の世界ゆえ、「ドルよりユーロのほうが不安」と認識されれば、ユーロ安・ドル高となる。
イエレン氏がハト派とされても、黒田日銀は超々ハト派と見られれば、円安・ドル高となる。
市場のトレンドはドル不安でもドル高(円安)という状況に傾斜しやすい地合いである。