豊島逸夫の手帖

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オリンピック・フィーバーも落着き、来週はFOMC

2013年9月12日

いよいよ注目のFOMCが開催される来週、筆者はNYに飛ぶ。FOMC当日には、NYSE(ニューヨーク証券取引所)のフロアーで、著名投資家ジム・ロジャーズ氏と対談する。過去7回の対談で、彼の思考回路も熟知しているので、おおよその会話の成り行きは読めてしまう。FRBの量的緩和を「ドルばらまきで、通貨価値の堕落」と強く批判してきただけに、taper(緩和縮小)といっても、米国の異次元緩和は継続される。引き締めへの転換は未だ先の話、といったところであろう。

筆者は、FRBが、現行の月850億ドルの債券買い取り額を月100億ドルずつ段階的に減らしてゆく、所謂taper light(緩い縮小ペース)と、フォワード・ガイダンスの「合わせ技」で市場への影響を和らげるのではないか、と見る。フォワード・ガイダンスについては、引き締めへの転換の引き金のひとつとされる失業率目標(6.5%への低下)を、6.0%にまで引き下げることで、実質的に金融緩和期間を引き延ばすことなどが考えられる。
金価格は、この量的緩和縮小を織り込み急落したところで、中国・インドの記録的現物買いが1200ドル台を支え、NY先物市場の空売り投機筋も諦めて買い戻した。このサイクルが一巡したところで、シリア情勢に揺れたわけだが、これも小康状態。そこで、結局ふりだしに戻ったところで、来週のFOMCを迎えるわけなので、ここは、緩和縮小あれば下げ、無ければ上げ、と素直に考えてよいと思う。

なお、ジム・ロジャーズ氏は、アベノミクスに否定的で、日本株は全て売り払った、と公言している。成長戦略でも、消費高齢化、未曽有の累積公的債務、そして移民を拒む国民性は変わらないというのだ。そこで、オリンピック開催決定が、彼の見方を少しでも変えたか否かも尋ねたいところ。おそらく、オリンピックの経済効果は限定的と見ているのではないかと予想している。

筆者は、オリンピックで日本経済が本当に変わるか否かは、我々日本国民の心次第だと思う。
株式市場のオリンピック・ハネムーンも持続性には限界がある。国民的祝賀ムードが、祝い酒の二日酔いに変わるとき、我々は、日本経済の厳しい現実にしらふで再度向き合うことになる。
成長戦略実施に立ちはだかる既得権益の抵抗、過渡期の失業者増など、「変化の痛み」を感じる人たちが、オリンピック・ユーフォリア(高揚感)の中で、覚悟を決めて前向きに変われるのか。国民が団結してチーム・ジャパンが日本を変える、というモメンタム(勢い)に乗って、痛みを享受できるのか。

オリンピックの経済的恩恵を単にばら撒くという痛みどめ的発想では構造改革にはならない。「なせばなる」というスポーツ根性論でも経済は変えられない。
オリンピック成功のためには「おもてなし」の心が大事だが、国内の成長戦略の成功のためには、恩恵を受ける人と痛みを耐える人の間の「助け合い」の心が大切だろう。
そして、オリンピック招致成功の達成感が、成長戦略成功の達成感を想起させ、成長戦略という名の構造改革に前向きな心が増えることこそが、オリンピックの最大の経済効果だと思う。

2013年