2013年6月21日
日本が異次元の量的緩和という「壮大な実験」の「入口」に立つとき、米国では「経済有事対応の非伝統的金融政策」という「壮大な実験」の「出口」で、市場の乱気流に遭遇している。
米国10年債の利回りは19日の2.1%台から2.4%台まで急騰(債券価格は急落)。ダウ353ドルの下げ。2011年に1923ドルの史上最高値を記録した金価格は、1300ドルを割り込み、2010年以来の1200ドル台をつけ、約6%の急落。
世界の投資家が「入るは易し、出るは難し」の意味を、苦くかみしめている。
「これまで量的緩和から発する過剰流動性を当て込んでいた市場が、その点滴を抜かれること(緩和縮小の可能性)を恐れ、依存症からの脱却の苦しみを感じ始めている。」14日の本コラム「QE依存症脱却にもがく市場」に書いたことだ。そして、19日のバーナンキ記者会見で、その緩和縮小の「可能性」が「現実」に近づいたことが確認されたところで、ついに「劇場のシンドローム」が始まった。満員の劇場で誰かが「火事だ」(=売りだ)と叫び、観客が一斉に狭い非常口に殺到する現象である。
俯瞰してみれば、20日に世界の市場をヒットした「売りの連鎖」は、金融政策依存の孕むリスクを露呈したともいえる。アベノミクスでデフレ脱却を目指す日本にとっても強い警告が発せられたと受け止めるべきだろう。
日本でも「異次元金融政策は時間を買う政策。財政政策はカンフル剤。本丸は成長戦略」と説かれてきた。流動性の罠にもがく経済における金融政策の限界は覚悟の上のはずのアベノミクスである。
いっぽう、米国経済は、国家債務が上限に達し、強制歳出削減が始まり、財政政策の切り札を使い果たしたところで、金融政策への依存度を強めてきた。しかし、バーナンキFRB議長自ら、過度の金融政策主導の景気浮揚に関しては懐疑的な見方を示してきた。それでも、市場はすがる気持ちでバーナンキ・マジックに頼ってきた。
そこに、ドクター・バーナンキは、患者には「すげない」態度で、緊急病棟から点滴を外し一般病棟への移動を告げ、しかも、来年の半ばには退院を通告したわけだ。患者(=市場)とのコミュニケーションを重視するドクターは、病状(経済環境)と治療方針(政策対応)につき、丹念に説明責任を果たすべく努めたが、患者のショックは抑えられなかったようだ。
これから患者である市場は、退院後の生活に備え、つらいリハビリ期間に入る。
しかし、リハビリに耐えれば、健康な日常生活が待っている。
大病に勝った患者の多くは、「自分は負けない」という強い意志を持った人たちだ。経済でも同じこと。20日の売りの連鎖が加速するか否かは、投資家の耐えるココロ次第である。投資家のリスク耐性が試される。
さて、金価格暴落。
金もグローバルな売りの連鎖に巻き込まれ、下げが加速したことは、上に書いたとおり。
4月の暴落時から「年末までには1200ドル」を日経、通信社、セミナーなどで繰り返し語ってきましたが、タイミングが早いことに驚いています。
1200ドル台は新興国や公的機関の買いと金生産コストを考えると、底値圏だと思います。
ただ、私の見方の前提で違ったのが、ドル円です。
ドル円100円以上を想定して、円建てでは下げも限定されると思っていました。リスクオフの円買いは私の想定外でした。
もう一つ、意外だったのが、市場のパニック状態。だって、緩和縮小は、実質的に既定路線で、ただ開始時期の時間軸が9月か12月か来年4月かの問題とされてきました。だから、9月からと言われても、市場のココロの準備はできていたはずです。でも、未だ、出来ていないプロたちが予想以上に多かったのですね。この慌て振りをみる限りでは。
なお、NY先物市場では、記録的な空売りポジションが溜まっています。彼らは買戻しのチャンスを今か今かと待っているわけで、その意味で先物市場内には、強烈な買いのエネルギーが溜まっています。早晩、かなりの規模のショートカバーラリー(買戻しラリー)が起こるでしょう。
更に、新興国市場では、記録的現物買いが出ることは確実です。
この価格水準では、高コストの鉱山会社は、減産・閉山の話も出て来ます。
公的機関の金買いも、安値圏を狙ってきます。
ですから、私は、金を買います(増す 笑)。円高はオマケと思っています。
プラチナもシルバーも安値圏で魅力的な価格水準。デパートのバーゲン・フロアーでどれ買おうか迷っているような状況です(笑)。