豊島逸夫の手帖

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量的に縮小、利上げ後送りの合わせ技、市場は安堵

2013年12月19日

FRBは債券購入プログラムを月額850億ドルから100億ドル減額すると発表した。

金融危機後の景気回復のために発動された「有事対応の非伝統的経済政策」解除に向けた政策転換の第一歩であり、「出口戦略」第一ラウンドともいえる。

FRBは、同時に、現在の実質的ゼロ金利政策(FFレート0.00%-0.25%)を、これまでの方針より、更に長期化させることも明文化した。

ゼロ金利解除の目途を、これまでの失業率6.5%以下、という表現から、6.5%から「大きく=well past」下がるまで、と変えたのだ。即ち、超低金利政策の事実上の延長を市場へ明示したわけだ。

そして、FOMCメンバー17人のうち15人までが、政策金利を0.25%あるいは、それ以下の水準に2014年末まで維持することで合意とも発表している。

一方で、FRBは、インフレ率が2%を超えるまでは、超低金利を維持するとも、これまで市場に伝えてきた。

以上をまとめると、FRBがベンチマークとするインフレ率が現在の1.1%から2%以上へ上昇して、失業率が6.5%を大きく下回るまでは、実質的なゼロ金利解除はない。少なくとも、2014年末までは、現在のFFレートを上げることはない、ということだ。


月額100億ドルという緩やかなペースで量的緩和を減額して、同時に、フォワード・ガイダンスには、上記の「超ハト派」的ニュアンスが強い文言を盛り込む、という合わせ技の決定となった。

記者会見では、イエレン次期FRB議長とも充分に相談したことを強調している。

短期金利は低水準に抑え込み、景気回復を下支えして、長期金利はフォワード・ガイダンスで市場とのコミュニケーションを図り急騰を防ぐ、というイエレノミクスの基本方針も見えてきたようだ。


更に、記者会見では、バーナンキFRB議長は、「マクロ経済状況が変われば、金融政策も柔軟に対応する。量的緩和減額を減らすこともありうる」との可能性にも言及した。


市場の反応は、12月開始と100億ドルの減額はある程度「想定内」だが、超ハト派的なフォワード・ガイダンスにサプライズと安堵感を感じている。超低金利政策の実質的延長は、引き締めの「執行猶予」を意味するからだ。

更に、これで、目先の不透明感が解消されたことも安堵要因である。恐怖指数といわれるVIXも16台から14台へ急落した。 各市場の値動きは、この歴史的金融政策の転換を消化しつつ、方向性を固めてゆくだろう。 基本的には、ドル高、株高、債券安、の「市況の法則」どおりの動きに収斂してゆきそうだ。


今後の市場を見る勘所は米10年債と2年債の利回りスプレッド。

FOMC声明後のニューヨーク債券市場では、10年債は若干上がり2.89%。2年債は僅かに下がり0.33%となった。そのスプレッドは2.56%。過去に、これが3%を超えたことはない。

足元では落ち着いた債券市場の反応を株式市場は好感している。

もし、10年債が3.25%を超えると、長短スプレッドが3%を超えるような事態となり、「悪い金利上昇」となる。米国債最大の買い手=FRBが、その購入額を減らすと、あとは、買い手として中国・日本頼み。そこに不安感を感じるケースである。

債券市場が安定していれば、これまで見られた「良い経済指標で、量的緩和縮小早期決定を連想して、株が売られる」という異常な地合いから、「良い経済指標を素直に良い材料として株が買われる」という本来の展開に戻ることになろう。

市場は「緩和縮小」の呪縛からの解放感に浸っているようだ。

金については、緩和縮小は売り材料だが、上記のような市場の安堵感で、それほど下げるとは考えにくい。

2013年