豊島逸夫の手帖

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FRBからも円安の追い風

2013年1月4日


市場の目線が財政の崖からFRBの金融政策に移ってきた。
ドル円は3日の欧米市場で87円の大台を割り込み、86円台後半で推移していた。さすがに円安も一服かと思われたが、ニューヨーク市場引け前に発表されたFOMC議事録で市場の景色は急変。再び円が急落。4日のアジア時間帯では87円台後半までつけている。
日本が正月休みに入る前には世界的なドル安傾向の中で対円のみドル高が進行したが、正月明けは対ユーロも巻き込みドル全面高の様相だ。ドル・インデックス も年末は79台であったが、3日のニューヨーク市場では80.57まで上昇した。特に、FOMC議事録発表直後に80.25から80.55まで急騰してい る。


マーケットがサプライズに揺れたのは、FOMC議事録に明記されたSeveral (officials) thought that it would probably be appropriate to slow or stop purchases well before the end of 2013 (数名の理事が債券買い取りプログラムを2013年末よりかなり早いタイミングで減速或いは停止することが適当と考えた)との一節。
Several (数名)とは少なくとも2名ではない。3名以上を示唆する。しかも、well before とwellがついたことは、今年秋にもQE終了というタイミングが想像される。
おそらくFOMCでは激論が飛び交い、バーナンキFRB議長、イエレン副議長、ダドリーNY連銀総裁の「ハト派トリオ」が、ロックハート・アトランタ地区連銀総裁らの「タカ派」を押し切ったのだろう。
マーケットの想定を上回る追加QE反対論があったことは、「QE依存症」ともいえるリスクオンの市場に冷や水をかける結果になった。
市場の反応は、NY株売り、ドル買い、金売り。
外為市場では、年末は、アベノミクスによる日本発の円売り、ドル買いと、世界的なドル売りの波が対峙する中で円の独歩安が進行した。しかし、年明けはドル全面高に転じたのだ。
結果的にはFRBも円安を後押しするカタチとなってきた。


では、QEが予定より早く終了するのだろうか。
米国経済は確かに住宅指標を中心に改善の兆候を見せているが、QEという点滴を抜けば、再び症状がぶり返す可能性が強い。QE早期終了論の主な論拠は、QEの副作用ともいえるインフレに対する警戒だ。たしかに10年物米国債の利回りは1.8%台にまでジワリ上がってきており、2%の大台を突破すると、一 気に売り込まれる可能性もある。しかし、機関投資家の米国債買いも根強い。現場の感覚として、抜群の流動性へのマネー「逃避」現象が止まるとも思えぬ。市場のインフレ期待感に火がつくには、まだ相当の時間が必要と思われる。
金市場でインフレ・ヘッジの金買いが増加しているわけでもない。従って、2013年内のQE終了が現実的なシナリオには思えない。FRBバランスシートが4兆ドル規模にまで膨張することへの警戒論も高まっているが、だからといって、早期にQEを終了するにはリスクが大きすぎる。
但し、市場は先取りして動く傾向があるので、QEを当て込んだ世界的ドル売りの潮目には変化の兆しが見られるようだ。
ここに円安加速のシナリオを見る。


金価格は、日本の正月休み中に、財政の崖回避によるリスクオンの波に乗り一時は1690ドル水準まで戻したが、今朝のアジア時間では1640ドル台にまで急落中だ。
予定より早く出口戦略の可能性がちらつき、ドル全面高となると、QEを当て込んだ金価格梯子外され1600ドル割れもありうる。
インドの財務相が、経常収支赤字削減のため、国民に金買い抑制を訴え、金輸入関税引き上げを示唆したことも気になる。(金はインドの主要輸入品目。昨年、関税を2%から4%に引き上げたばかりで、今年は6%に引き上げるのだろうか。)
しかし、円建てでは円安進行ピッチも早く、下がりにくい。
詳述したように、早期出口戦略は考えにくく、あまりばたつかない方が良い。


さて、あけまして おめでとう ございます。
私は休み中に頭の中の充電をしました。普段、情報のアウトプットが多いので、こういう機会に知識のインプットが必要です。
今日から仕事始めですが、正月休暇中にもフォローしていたマーケットが大きく動いたので、すんなり社会復帰。(夏休みは社会復帰に手間取ったけど(笑)。

2013年