豊島逸夫の手帖

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2014年のイエレン・リスク

2013年10月25日

もう2014年の相場展望を収録する時期になってしまった。正直、気が重い。明日の相場も不透明な時代に、一年後のドル円やら商品価格やら聞かれても、分かるはずもない。しかし、こういう「リスク・テイカー」が必要なのだと観じ、連日「専門家」たちとの座談会をこなしている。
そこでまず話題になるのは、やはり米国量的緩和縮小の時期である。
今年9月のFOMCで緩和縮小決定のはずが、米国財政問題をはさみ、後送りされ、いまや来年3月説あるいは6月説が主流になりつつある。
マーケットは、「執行猶予6ヶ月」とほぼ決め込み、投機マネーもまだ「急ぎばたらき」を一度二度はできると踏み、市場再参入の機会を虎視眈々と狙っている。
彼らの心の支えは「イエレン次期FRB議長」である。超ハト派とされるからだ。物価安定より雇用重視の基本的金融緩和路線は継続と読み、雇用・住宅指標同時悪化など事と次第によっては、「緩和縮小」はおろか、QE4(量的緩和第四弾)でさえ絵空事と断じることは出来ぬ、との「期待」さえ芽生えている。早晩、緩和縮小決定は不可避なれど、少なくとも株価暴落の引き金を引くようなタカ派的発言はあるまい、との読みが「心の支え」なのだ。

ここに、2014年の市場が孕む最初のリスクを見る。
イエレン氏=超ハト派との見方は、量的緩和政策を一貫して副議長として補佐してきたとの「状況証拠」によるところが大きい。
しかし、FRBは米国の中央銀行であり、中央銀行の長は「通貨の番人」とされ、物価安定も重要なマンデート(任務)である。
就任にあたり、イエレン氏も雇用重視の発言の繰り返しでは、中央銀行家としてのバランスを欠く印象を与えかねない。
とはいえ、物価安定重視の発言をすれば、経済成長は二次的政策目標とみなされる。市場は「タカ派」的発言に動揺する。就任早々、株価急落を招くような言動も控えたいところだろう。
「通貨の番人」としてのプライドと、差し迫った雇用重視の必要性の狭間にイエレン氏の心も揺れることと察する。
市場のリスクは、その複雑な立場に立たされるイエレン氏を、超ハト派とほぼ断じていることにある。
しかし、同氏の最大かつ最難関のマンデートは、緩和縮小から利上げを含む引き締めへの転換にあることを忘れてはならない。
同氏が、フォワード・ガイダンスなどで引き締めへの転換条件をいかに表現するか。超ハト派のはずの人物が、タカ派的発言を強いられることに対する市場の反応が気になるところだ。


なお、9月FOMCにおける「緩和縮小延期」の「ちゃぶ台返し」の時に味わわされた「喉元の熱さ」を忘れたかのように、「3月縮小決定説」に市場は傾きつつあることにもリスクを感じる。
ここで、バーナンキ氏が「最後の一仕事」として今年12月のFOMCで「緩やかなペースの緩和縮小を開始」と告げれば、マーケットにはかなりのサプライズになろう。
このままでは、バーナンキ氏は単に「ドルをばら撒いた人物」として歴史の教科書に名を残すことになりかねない。金融政策正常化の道筋をつけたうえで、リーマンショックに対する一連の有事対応を完結させケジメをつけたい、との思いも強いのではなかろうか。
もちろん、FOMCは集団意志決定会合であり、かつ「経済指標の出方次第」とのデータ重視のスタンスは変えられない。
しかし、FOMC決定の際の投票権を持つメンバーの中に来年からはタカ派が増えることも考えると、「やるなら今でしょ」とのバイアスがかかる可能性も無視できないと考える。
緩和縮小を正当化するような、例えば雇用統計の前月データ上方修正など、想定外の「良い米国経済指標」には要注意である。

さて、昨日は、日経マネー誌の2014年相場展望対談を二つこなした。一つは、シティーのシニア為替アナリストの尾河眞樹さんとの為替対談。

1505.jpgもうひとつは亀井幸一郎、池水雄一とのゴールド・プラチナ対談(ナビゲーター大橋ひろこさん)。
恵比寿のフレンチ・アンティーク(といえば聞こえはいいが、かなり、ガラクタ 笑)が売りのスタジオで収録。
対談は面白かったよ。仕事とはいえ、楽しめた。特に、尾河眞樹さんは、今年、本も売れたし、メディア露出も増えたし、ピカイチでした。家族ぐるみの付き合いだから、こころやすいので、対談も、編集者が、そのまま活字にできるくらいまとまっている、と喜んでいました。
逆に、金のオッサン3人対談は、活字に出来ない話ばかりで、さぞかし、編集者はお困りでしょう。そもそも、この3人に自由に語らせるという企画が無謀~~(笑)。言いたいこと言って、あとは、よろしく!と解散しました。

本文にも書いたけど、今週から、2014年相場展望企画が続きます。近年の実績は、専門家たちが殆ど外しているのに、それでも、誰かがリスク・テイカ―となってやらねばならないわけ。常々相場は8勝7敗で御の字の世界と言い続けているけど、そうは分かっていても、なにか、よすがが欲しいというのが投資家の気持ちなのだと思います。ヘッドラインには予測数値だけが取り上げられるけど、その数値に至る思考過程の説明が大事と心得え、そこは丁寧に語っています。
昨晩は、そのあと、某公共放送で「結婚離婚」問題についてキャスター3人と語る30分番組企画がありましたが、台風情報優先で、流れました。もうひとつ「結婚離婚評論家」としての仕事も来ていますが、「相場展望」より、内容は深いですねぇ。。(笑)。

2013年