豊島逸夫の手帖

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外人マネーの勝ち組、負け組

2013年6月10日

「米雇用統計はまずまず通過した。残る不安要因は日本市場のボラティリティーだ。」
ニューヨークから聞こえてくる市場関係者たちの声である。
5月の米雇用統計の評価については「ゴールディロックス」という懐かしい単語が頻繁に使われている。この言葉は、インフレになるほど熱すぎず、デフレになるほど冷たすぎず、「適温経済」という意味だ。
非農業部門雇用者数17.5万人増は、FRBの到達目標とされる月20万人には届かなかったが、最近低調が続いた米国マクロ経済指標により危惧された「冷たすぎる」数字とはいえない。
かといって、緩和逓減(taper)の可能性を高めるほど「熱すぎる」数字でもない。
失業率は前月から0.1ポイント上昇して7.6%になった。しかし、最近の解釈では、「増えつつあった求職をあきらめていた人々(労働参加率減少傾向)が、再び職探しに動き始めたという良い兆候」とされる。
その結果、米雇用統計発表後のニューヨーク株式市場は急騰して、ダウ工業株30種平均は前日比1.4%高の1万5248ドルで引けた。ヤレヤレという「安堵相場」の様相である。

そこで、残る不安要因が日本株、ドル円の乱高下だ。
「日本はリスクオフを輸出している」などと語られるほど。
7日の日本時間日中には、外国通信社が「ソロス氏、日本株買い、円売り再開か」との報道を流したが、一方で、英ヘッジファンド大手マン・グループは、日本株などの異常なボラティリティーで3日までの1週間で運用資産6.1%減少と発表している。
日本市場に出入りするヘッジファンド中心の外人マネーにも、勝ち組あれば、負け組もいるのだ。
多くの外国人短期マネーが日本株市場へ流入し、ジャパン・リスクに敏感になっているおり、老舗ヘッジファンドも読み切れぬほどのボラティリティーゆえ、日本発のリスクオフが拡散しているわけだ。

一方、株価維持に重要な年金などのリアル・マネーの多くは、基本的に日本株急落を調整局面と理解し、割安感が出たところで買いの姿勢なのだが、リスクオフ・ムードが強まり、最終決断はとりあえず先送り傾向のようだ。
112兆円の運用資産額を持ち、世界最大の年金基金とされるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、株運用を拡大の発表も、日本株運用基本比率増加が11%(プラスマイナス6%の幅は許容)から12%(同)という小幅にとどまったことで、ファンドの間では失望感も見られる。しかし、欧米年金は日本の最も保守的な巨大年金の異例の発表に注目している。年金業界は日米問わず、横並び意識が強いことを、筆者の元上司でカルパースCEOを9年間勤めた人物から教わった。

今週の日本株は、雇用統計発表後のニューヨーク株価急伸を受けての急反騰局面と、SQ(株価指数先物の決済の基準となる特別清算指数)算出前後の荒い値動きが交錯して、ボラティリティーは高くなりそうだ。 とはいえ、このボラティリティーの振れが収束すれば、日本株の値位置が低くても、長期マネーは買いゾーンと見てくるともいえよう。
一方、為替のほうは、欧米市場の論調としては、たしかに米国経済のソフト・パッチ(雨によるぬかるみ=一時的鈍化)を危惧する声は多いが、そこでドル高・円安トレンドまで変化すると読む人は極めて少数派だ。「FRBなど不必要だ」とまで極言して米国経済悲観論を唱える著名投資家ジム・ロジャーズ氏でさえ、筆者との対談で、繰り返し円安トレンドを予測している。
総じて、ドルも円も不安要因をかかえるが、相対的に見れば、米国経済のほうが景気回復で大きく先行しており、出口に近いドルのほうが買われやすい市場環境は変わらない。
日本株も「期待先行」で買われてきた反動と言われるが、筆者が最近対談したエール大学のシラー教授(ケース・シラー住宅指数の考案者で行動経済学の権威)に言わせれば、そもそも投資家は結果より期待で脳神経が刺激されるのだ、ということになる。今後も、量的緩和の「入口」に立つ日本株に期待が集まるのは当然の成り行きであろう。ただ、短期的価格変動に接して慎重になっているだけだ。

その、日本市場のボラティリティーの高まりも短期的現象と見る。
市場のボラティリティー・インデックスであるVIX(別名恐怖指数)は7日の時点で15.14。短期的に上昇しているが、この一年間の安値11.05高値24.93というレンジの中では、未だ急上昇とはいえない。ちなみにギリシャ危機のときは40を超え、リーマンショックのときには80に接近している。
S&P500株価指数の変動率を元に算出されるインデックスだが、日本発リスクオフが欧米に波及しつつある状況の中では、参考になる数値であろう。
なお、雇用統計後、金価格は30ドルほど急落。1380ドル台で推移。
株式の安堵相場で緩和逓減の可能性が高まり、為替市場でドル高に振れたことによる。
対照的に、プラチナは1500ドル前後。
円建てでは、先週の円高で下がったけれど、今週は円安が復活して上昇見込み。

週末は、土日と体育会系ゴルフ一日2Rずつ計4Rやりました。
相場漬けの生活から隔離された状況で、思いっきりストレス発散。
スッキリして、さぁ、今週も乱気流相場に突入。
それにしても、相場画面見ていると、カラダの関節は固くなるね。
スイングが思うに任せぬ。それでも、天気は最高だったから、大満足。

2013年