豊島逸夫の手帖

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台風一過に備える米国市場

2013年10月16日

「災害(disaster)は買い」
著名投資家ジム・ロジャーズ氏が、よく口にする言葉だ。

日本びいきの同氏は、東日本大震災の当日、日本を応援する気持ちで、シンガポールの日本料理店に家族を連れていった。ガラガラの店内で、プロのファンド・マネージャーとしての本能は「急落する日本株は今が買い」と感じ、即実行に移したという。

今、世界の市場に迫る「災害」は米国債務引き上げ交渉の行方だ。
既に、カウントダウンが始まったニューヨーク市場。

明日までに債務引き上げ交渉がまとまらなければ、米財務省は300億ドル(約3兆円)のキャッシュで当座の台所を賄わねばならない。そうなれば、デフォルト(債務不履行)は時間の問題だ。17日のDデイ前日になって、格付け会社フィッチは米国債見通しをネガティブ(格下げ方向)で見直すと発表した。
米国10年債の利回りも2.6%台から2.7%台にまで上昇。短期物を中心に米国国債は売られている。しかし、それでも、一時3%に急接近したことを思えば、金利急騰とは言えない状況だ。
米国の借金返済能力に皆が疑念を抱いているが、かといって米国債を売って、何を買えばよいのか。既に現金保有比率は高水準に達している。
米国債市場の市場規模は突出しており、債務不履行不安にもかかわらず、マネーは米国債に「相対的安心感」を感じている。「安全性への逃避ではなく「流動性への逃避」だ。
デフォルトといっても、最も現実的なシナリオはテクニカル・デフォルト。元本のカットではなく、利払いの一時停止という事態であろう。

「米国経済システムの破たん」というテール・リスクは長期的に見れば無いとは言い切れないが、年内にあるか、といえば、まずそこまでの進行は考えられない。
そこで、短期の投機筋は、まず、デフォルト懸念に乗った株やドルの空売りを、17日以前に買い戻しに動く。これは、既に、進行中だ。身辺整理したうえで、17日当日を迎えている。
そのうえで、土壇場の合意で、先送りされれば、再び、株・ドルの新規買いポジション増加が顕在化するだろう。

逆に、テクニカル・デフォルトに陥り、株価・ドルが急落すれば、ヘッジファンドなどは、それこそ「災害は買い」に動くと予想する。

ジム・ロジャーズ氏も「刷りつづけられる米ドルを長期で保有する気などサラサラないが、短期的なドル買いポジションは市況次第で持つこともある」と語る。

市場の動きを読むには、まず、短期投機マネーとリアルマネー(年金基金など)の動きを弁別することが極めて重要だ。
流動性の観点から米国債を売るに売れないリアルマネーの現状を読み投機筋は動く。
しかし、長期的には、米国経済の信用性が徐々に損なわれてゆくだろう。米国債から他の資産へゆるやかな分散が進行する。
機関投資家は「サラリーマン・ディーラー」ゆえ、「よそさん」が米国債(そして日本国債)保有を続ける限り、自ら先陣を切って大量売却に走ることは考えられぬ。
しかし、ポートフォリオのリスク管理が厳格化するなかで、米国債のリスク・ウエイトは徐々に高まっている。
国債リスクが臨界点を迎える時点で、たまたま「担当」として在籍するサラリーマン機関投資家は、「椅子取りゲーム」に最後に残った「不運」な社員として社内の同情を買うのだろう。

金市場も投機家に売られ、リアルマネーは下げが一巡するタイミングを狙っている。

先月、NY証券取引所フロアーでジムロジャーズ氏と。

1498a.jpg台風一過の虹です。

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2013年