豊島逸夫の手帖

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日本株復活へ証券業界も迫られる構造改革

2013年6月18日

亀井幸一郎新著も薦めます!
本のタイトルがちょっとばかり刺激的でねぇ。。出版社の意向なんだろうけど。「急騰前の金を買いなさい」。だけど、内容は非常に濃い良書。金に興味ある人には熟読を薦めます。

1432.jpg思い起こせば、20年以上前、亀井氏が草分け的FPだったころ、WGCに居た私がリクルートして、金の世界に引きずりこんだ経緯もあります。今では、家族ぐるみのつきあい。私の配偶者は彼のことを「亀ちゃん」と呼び、筋金入りの阪神ファンの彼と、これまた筋金入りのロッテファンの彼女と、ゴルフ場で野球談議に沸いています。交流戦とか阪神・ロッテの日本シリーズになったら、もう大変(笑)。
昨日のこのブログで池水本を紹介したら、多くの読者が買ってくれて、アマゾン・ランキングが急上昇で感謝!
亀井本も宜しくね。
今晩は、二人の共同出版記念パーティーがあり、そういう縁なので、乾杯の音頭とって、盛り上げますよ。

さーて、今日の本文。
今回の日本株アベノミクス相場の急騰・急落劇は、はからずも、日本人長期個人投資家の欠如を露呈させた。
その背景として指摘されるのが、証券業界の「売買回転重視」の営業姿勢だ。
筆者は、証券会社の依頼で全国20の支店を「基調講演者役」で廻ったことがある。午後2時から開催される支店セミナーの参加者は平均年齢75歳。億単位の金融資産を保有する「超優良顧客」ばかりだ。筆者の一般講演が終わった後は、本社から派遣されたアナリストや営業企画担当者が「今期のキャンペーン商品」について投資経済環境も含め説明する。参加者たちは、「シェフのお奨めメニュー」に素直に従う姿勢だ。こうして営業本部が「戦略的」に選択・決定した「旬の商品」が四半期ごとに売買されてゆく。

そのためのセミナーで、例えば、筆者が、個人投資家向けにETFの活用を説くと、最後部に陣取っている支店長が、苦虫をかみつぶしたような表情をすることもあった。ETFの年間信託報酬は例えば0.5%。それが、アクティブ運用投信ならば2.0%以上となる。
売る側からいえば「マージンが薄くて儲からない」ETFを、長期投資で「退蔵」されたら、駅前立地の高コスト支店の採算が合わないことは明白だ。
投資家に旨みのある商品は、業界に旨みがないことを実感した。
勿論、コンプライアンスが厳格化された今、顧客に「売らせ、買わせる」ことはできない。
ただ、現場で見る対面営業では、「昔からのお付き合いだから」という理由で、「支店長さんにお任せ」するシニア顧客が目立つ。
なかには、分配型投信の「たこ足配当」金を「おこづかい」として認識している高齢女性が、支店長に「毎月、おこづかい頂いて、ありがとうございます」と頭を下げている場面もあった。
金融リテラシー(知識)が欠如して、勉強不足の顧客。その営業環境の「構造改革」には手を付けず、黙認する業界。
これでは、長期投資家が育つはずもない。
長期投資家不在の市場で、ガイジン・マネーの高頻度取引により株価が乱高下して、潜在顧客が株離れを起こすようでは、自業自得ともいえよう。

また、顧客が長期投資として退蔵する銘柄には、リサーチ・アナリストもつかず、証券会社内の知見も欠落することを、原発事故後の東電株急落で思い知らされた。
シニア層が「安全資産」として長期保有してきた銘柄ゆえ売買手数料も見込めず、調査部門に社内資源を投入してこなかったので、電力セクターに特化する人材が育たなかったのだ。わずかに、電力会社は債券を発行していたので、格付け会社には電力専門家が育成されていた程度であった。
証券会社の「構造改革」なくしては、日本市場のウインブルドン現象(ホーム・グラウンドで外人プレーヤーたちが活躍する光景)は変わらない。日経平均先物市場を舞台に、外資系の高頻度取引による空中戦が繰り返されるだけだ。
「金融ニッポン」セミナーで講演したときには、熱心な投資勉強家たちに勇気づけられたが、現場に出ると、彼らは少数派であることも痛感した。
「おカネに関心を持つことは卑しい」という価値観もいまだに強く残る。
売る側だけではなく、買う側も、「意識変革」が必要だ。

なお、金市場から日本株市場を見ると、長期保有者の下支えがある市場とない市場の差が歴然としている。
金価格上昇トレンドが12年間も続いたのは、ニューヨークからの先物大量空売り攻勢に対して、押し目で買い向かう中国・インドの長期保有層がいたからだ。新興国経済が減速した2012年でさえ、年間金生産量2861トンの57%をこの二か国が買い占めた。今年の金暴落局面では、新興国市場で過去最大規模の現物買いが見られ、需給がひっ迫して、この10年で5倍の値上がり率を維持している。
今後、新興国経済が更に減速すれば、金価格も更に10%程度の下落が考えられる。逆に、FOMCで緩和縮小が決定されるほど米国経済が回復すれば、中国・インド経済も連動して好転し、金価格もニューヨーク先物主導ではなく新興国現物市場主導の第二段階の上昇トレンドに入るだろう。
長期相場トレンドを決めるのは、買ったら売られる先物市場ではなく、「買いっぱなし」の現物市場だ。
この「市況の原則」は、株式市場にもあてはまることであろう。

2013年