豊島逸夫の手帖

Page1394 ドル安時代終焉を告げる金暴落(4月13日分)/黒田日銀に朗報か 金急落(4月15日分)

2013年4月13日・15日

※今日は13日執筆と15日執筆の2回分です。

【ドル安時代終焉を告げる金暴落】

12日の欧米金市場でドル建て金価格が1560ドル台から一気に大台を割り込み1480ドルまで暴落した。しかもほぼ安値引けである。この日、金市場関連では特に新規売り材料が出たわけでもない。当面のレンジ下値とされていた1525ドルを割り込んだ時点から、ストップロスが次々にヒットされ、売り一色の展開になった。

この金価格下落は中長期的な流れで俯瞰する必要がある。
これまでの金高騰の過程では、ドル安トレンドの中で、ドルの代替通貨として買われてきた。しかし、欧州債務危機でユーロが売られ、アベノミクスで円が売られ、その反対取引としてドルが買われる構造に変質した。金高騰の図式が崩れたのだ。ドル高局面入りを告げる象徴的現象といえる。

そして、今回1600ドル前後の水準からの金下落の引き金を引いた最大要因がFOMC議事録であった。金利を産まない金は、ゼロ金利ゆえ買われ、更に、量的緩和の「コスト」として懸念されるインフレに対するヘッジとして買われてきた面が強い。事実、大手ヘッジファンドのポールソン&カンパニーは93トンもの金ETF大量保有を続けているが、その理由は「量的緩和政策の副作用に対するヘッジ」と記者会見の席でも説明されてきた。しかし、最新のFOMC議事録で、2013年末までに量的緩和縮小を支持する意見が顕著になってきたことが確認され、金市場には衝撃が走った。これまで金市場内では、出口戦略発動を2014年ないし2015年と見て、それまでは金高騰が続くとの安心感が高値を支えてきたからだ。筆者も、「金下落は2014年から2015年」とコメントしてきた。しかし、その時期が早まる可能性が浮上してきたのだ。現実的にはバーナンキFRB議長任期切れとなる2014年1月までは量的緩和継続路線が大きく変わることは考えにくいが、市場は常に先読みして動く。
マネーの動きを見ても、今年に入り、金ETF市場から大量の投資資金が流出し、株式市場に流入している。
金からドル、株へのマネー回帰が進行中なのだ。

更に、価格が急落すると大量の買いを入れて相場の下支え役になってきた中国では、物価上昇率が3月には2.1%と鈍化したことも、インフレヘッジとしての金買いの切迫感を弱めた。
とはいえ、中国については、1500ドル割れの水準では値ごろ感から大量の買いが入るだろう。昨年、中国・インド経済が減速した年でもこの二か国で年間金生産量の57%を買い占めている。米国経済が、量的緩和解除を容認できるほどに回復すれば、新興大国の経済成長率も再び上昇し、年間金生産量の70%を買い占めても不思議はない。
ここに強力な下値サポートを見る。短期的にはレバレッジがかかっているニューヨーク先物の売りが優勢となるが、現物市場の需給ひっ迫感がボディーブローのように効いてくるだろう。

なお、ECBドラギ総裁がキプロスの金売却について言及したことも報道されるが、仮に売却されてもその量は約10トン。年間金供給量が4400トンほどなので、そのインパクトは限定的だ。近年は韓国・ロシア・トルコ・メキシコなどが一回数十トン単位で外貨準備として金を「購入」しているので容易に相殺される量である。
ポルトガルなどへの金売却の可能性も取り沙汰されるが、同国は公的保有金382トンをBIS(国際決済銀行)との間でユーロとスワップ(期限6か月から1年)することで、アウトライト(直接的)売却を避け、流動性を調達している。
このキプロス問題は話題性があるので、ニューヨーク金先物市場における「先物売り」の恰好の口実として利用された感が強い。



【黒田日銀に朗報か 金急落】

「我々中央銀行は金価格を金融政策の通信簿として見ている」
かつて金関連国際会議、日経ゴールドコンファレンスのスピーチで日銀高官が述べた言葉だ。
金融政策の節度が守られ信認されれば、代替通貨としての金は買われず、金価格は下がるはず、という発言趣旨である。その意味で、金高騰は金融政策不信を映す現象であった。
その金価格が12日の欧米市場で急落。1500ドルの大台を割り込んだ。その背景については「ドル安時代の終焉を告げる金急落」(本欄13日づけ)にて詳説してある。

12日の外国為替市場ではドル円が98円台まで円高に転じているので、円建て金価格の下げは更に増幅されている。
そして、国内投資家の反応といえば、円建て金価格が円安効果で30年振りの高値圏まで急騰した過程でも、買い取りショップを通じて売り戻しが目立った。自国通貨価値が下落すれば、通常は代替通貨としての金は買われるのだが、日本人投資家は黒田日銀の金融節度に対して「金売り」の信認投票を投じたことになる。
個々の投資家の行動としては当然「利益確定売り」ということだが、もし「異次元金融緩和」のコストとして指摘される「過度のインフレ」に対する懸念があれば、果たして売りに走ったであろうか。

金価格は市場のインフレ期待度の指標としてもウオッチされているので、その意味では、黒田日銀の「大胆」な金融緩和政策が訴求するインフレ期待感は未だ高まっていないとも解釈できるのだが。

元来、日本人投資家はホーム・カントリー・バイアスが顕著で、自国通貨=円に対する信頼感が他国より強いことも指摘されよう。虎の子を外国の通貨で保有することに抵抗感を感じ、資産を円だけで持つことのリスク感覚が薄い。直近の例でも、黒田円安が進行すればジャパン・マネーの大量海外流出がおこるとの観測にも関わらず、統計上は海外資産を売却するレパトリの動きが顕著だ。金も「外貨建て資産」の範疇に入るので、この要因も無視できない。

さて、12日の金急落について補足しておくと、ヘッジファンドの円売りが買い戻された同日に、ニューヨーク先物市場で金価格が1500ドルの大台を割り込んだことも示唆的だ。
12日に発表されたシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の通貨先物市場での円売り越し幅(投機筋)は2週連続で縮小した。但し、7万7697枚と依然高水準にあることは事実だ。
対して、同日発表された米国金先物市場における大口投機筋の売買統計では、買い越し残高が3週連続で減少したが、枚数は11万9359枚とこれまでの金高騰過程の中では極めて低い水準にある。一方、売り残高が前週に比し2025枚増え、8万4453枚と、こちらは同過程の中では高水準に増えつつある。この統計が示唆することは、金の買いポジションの整理はかなり進み、新規売りが増加中ということだ。

また、金ETF市場からのマネー流出も顕著で、主力銘柄「SPDRゴールド・シェア」の残高がこの4カ月で約14%も減少。特に先週後半の落ち込みは記録的ペースであった。
総じて、外為市場規模のほうが金市場より遥かに大きいので、ファンドの一部が円売りを買戻し、矛先を変えて、その分を金の新規売りに廻したことで金価格には大きな影響を与えたことが考えられる。ただし、12日発表の両統計とも9日時点の数字であるから、来週の同統計発表で、その実態が明らかになろう。
なお、買いポジションは整理され、新規売りが増加ということは、市場内でいずれ先物売りの買戻しという買いエネルギーが蓄積していることを意味する。
なお、15日のアジア時間に、中国の1-3月期経済成長率が7.7%へ減速のニュースで、金価格は更に下落。1450ドルも割り込み、1440ドル台で推移している。ここまで急速に下落すると損切りの売りも加速するが、中期的には、底値圏に入ってきたと見る。

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