豊島逸夫の手帖

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雇用なき円安

2013年2月1日

1月は円安急進行が「これで円高不況脱出か」との高揚感を高めた。
そして2月入り。足元では円安が加速。92円接近中だが、今月は電気料金値上げ実施も迫り、円安の家計圧迫要因が認識され始める時期となりそうだ。
更に、企業の円安メリットをいかに雇用増に還元するか。企業経営戦略とアベノミクスの「成長戦略」が問われる月ともなろう。
本日1日には市場が注目する米国雇用統計が発表される。
外為市場では「良い数字=ドル高」を先取りするかたちで、既にドルが買われ円が売られている。
しかし、日本の失業率統計発表が相場変動要因として意識されることは殆どない。
また、現時点で、円安が新規雇用を生む気配も未だ感じられない。
逆に、主要企業では外国人正社員の雇用増傾向が顕著だ。イオンは外国人1500人を幹部候補として採用し、日本本社の人材多様化を進め、20年度には本社の外国人比率を5割に高める方針という。
海外に進出する日本企業にとっては当然の戦略だ。
円安によるコスト増も見込まれ、各社の決算発表でも、「今後も一層のコスト管理に努める」との決意が頻繁に聞かれる。
また、成長企業における「人員削減」も珍しくない。
企業単位では、労働生産性向上を通じて企業の経営効率改善が追求される。しかし、その結果、マクロ経済面では国内雇用が失われる、という「合成の誤謬」のリスクがある。

そもそも、日本人の所得水準は、アジアなど新興国に比し、依然高水準にある。長期的にみれば、この所得格差の平準化は不可避だ。
今の日本は、その平準化プロセスにおかれているので、円安が進行しても、雇用・賃金が増えにくい構造にある。
けれども、貿易自由化が進み、世界経済のパイが大きくなれば、新興国の雇用・賃金水準が増加することで日本に近づくシナリオが期待できる。保護主義は雇用の奪い合い、賃金のダンピングを産む。
アベノミクスが円安政策を志向するのであれば、貿易自由化政策とセットで論じられるべきであろう。
更に、再就職のための訓練施設など、労働力の移動性を高めるための政策も欠かせない。

円安はどこまで続くか。購買力平価など理論だけでは割り切れない面も多い。これからは、「相場の神様のプレゼント」である円安の恩恵を利用して雇用を増やす国の政策、そして民間のイノベーションを刺激する「起業家精神」、それをファイナンスする金融ニッポンのインフラ構築が益々重要になる。

さて、本日発売の週刊文春30-31ページ。
「日銀マンがこっそり教える資産防衛術」と題して、本欄読者ならお馴染みのエピソードが実話入りで紹介されています。
先週の週刊新潮54ページでは「いつのまにか金より高くなったプラチナ投資の未来」という記事も。
それから今日午後3時35分からテレビ東京、Mプラス・エクスプレス・ニュースに生出演、「高値続く金は買い?意外活用法」。
明日2月2日昼12時5分からテレビ東京・BSジャパンの「マネーの羅針盤」生出演、「円安時代の投資術」。
一般メディアがここまで騒ぎ始めると一相場終わりとプロの間では言われるのだけど、今回の円安に未だピーク感感じられず。

2013年