豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. デル非上場化、見直される同族企業
Page1349

デル非上場化、見直される同族企業

2013年2月6日

近年、ハーバード大学卒業生が非公開企業や同族企業に就職するケースが増えている。
株主重視・四半期決算・コンプライアンス偏重など制約の多い公開企業では、CEOも2-3年契約。CEOが変われば、社内の雰囲気も別会社の如く変わり、実質転職したかのような錯覚にさえ捕らわれる。これは、筆者が実体験で痛感したことだ。
COOとCO2は「削減対象」と揶揄されるほど経営陣のステータスも不安定だ。中期経営プランでさえ毎年書き換えられる。短期的業績追求が優先され、長期的ビジョンは描けない。
コンプライアンスも度を越すと、組織図で、現場の社員一人に対して、点線のレポーティング・ラインで3人ものスーパバイザ―(お目付け役)がつくほどだ。人事評価も「減点パパ」方式になりがちで、社内のイノベーションの芽も摘まれる。
社内リスク管理も、あまりに厳しくすれば、社員は「おみこしをかつぐふりをする」傾向が強まる。まともに、社内でおみこしをかつげば、キャリア・リスクが増すだけだ。部門によっては、「まともにおみこしをかつぐな」と「社内指導」される例さえある。トップが最も恐れることが、「頑張り過ぎ社員」による意図せざる情報漏えいリスクやレピュテーション(風評)リスクだからだ。
筆者が目撃した例では、普段極めて冷静な部長氏が、ある日、訪問したところ、見るからに取り見出し顔面が蒼白になっている。何事かと、知り合いの女性社員にそっと尋ねたら、「秘書が私用携帯電話を紛失した」からだという。その携帯に社内関連情報などは一切残っていなかったのか?社長に「君、大丈夫だろうね」と念を押されれば、部長は、その挙証責任を負わされたようなものだ。その社長でさえ、CCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)には一目置かねばならぬ。
このような経営環境に対する反動として、新卒が敢えて「同族企業」を志向する傾向が生まれるのだ。

今朝の日経朝刊一面記事の見出しも「米デルMBO,非上場へ、経営改革大胆に」。「創業者マイケル・デル氏と米投資ファンドがデルの全株式を共同買収し、非公開会社にする。株価動向や株主らの意向に左右されずに、大胆な経営改革を進められる環境を整える」と書かれている。

今、日本企業の「成長戦略」にはまさに「大胆な企業改革」が求められている。金融政策が非伝統的となれば、企業経営も非伝統的な手法を選択する覚悟がなければ、長期間のデフレ漬けからの脱却は覚束ない。アベノミクスでも「起業家精神」を生かす成長戦略が肝要となる。
ただし、外からの監視に晒されないことは、社内の規律が緩むリスクがあるので、「性善説」に立たねば、非公開企業の経営は成り立たない。中小企業ともなれば、創業社長による「体罰」経営も、珍しいことではない。それでも、長期経営ビジョンがぶれないメリットを重視する「就活」傾向は、今後もより顕在化するのではなかろうか。

金の世界でも、ゴールドマン・サックスの現CEOブランクファイン氏は、元々、Jアロンという大手貴金属会社で営業部長をやっていた人。それが、ゴールドマンに買収され、いつのまにか、本体のCEOにまで登りつめた人物なのです。貴金属商の部長さんが、大手銀行の頭取になる、なんて、日本ではありえない話ですよね。ここが米国経済のアメリカン・ドリームというか、ダイナミックで力強いところです。
アベノミクスもジャパニーズ・ドリームが描ける大胆な「成長戦略」を打ち出してほしいものです。

2013年