2013年3月5日
4日~8日にわたり、都内のホテルで大手証券会社主催の大規模な日本株投資国際会議が開催されている。
海外から多数のファンド・マネージャーやアナリストが、日本企業トップによるIRプレゼンテーションを聴講するため来日中だ。
基調講演者は、5日が著名投資家ジム・ロジャーズ氏と石破茂自民党幹事長、6日が武藤敏郎大和総研理事長である。
筆者の長年の友人もジム・ロジャーズ氏はじめ、多数来日したので、さっそく声がかかり、私的に旧交を温める機会となった。
話題は、もちろん「アベノミクス」一色。プライベートの場ゆえ、本音の意見・疑問が遠慮なく飛び交う。4日だけでも、延べ議論時間は8時間を超えたろうか。
総じて、国内のアベ・ユーフォリア(高揚感)とは距離を置き、極めて冷静に安倍政権の船出を見守っている。
日本株買いも円売りも、ガイジン投資家に関しては、ここまで戦術的(tactical)な動き中心。つまりは相場のモメンタムに乗る売買である。
コアとなる年金基金などの長期マネーは、アベノミクスのリスクとリターンのバランスを計っている様子が目立つ。長年デフレ不況に陥った国の物価を2%に引き上げることに要する投入流動性エネルギーは、前例がない規模に膨張すること必至。まさに「ハイリスク・ハイリターン」の非伝統的金融政策であり、彼らもおいそれとアベノミクスにベット(賭ける)ことは出来ない。
まずは4月の黒田新体制下で初めてとなる日銀金融政策決定会合の結果、そして、最も重要な「成長戦略」が説得力を持ち、且つ参院選挙で国民により承認されるか、を見極めねば動けない。本格的な戦略的日本株投資は、それ以降となろう。アベノミクスも未だプロローグという見方が主流だ。
但し買い出動するときには、ONのボタンを迅速に押さねばならず、市場環境の徹底調査、そして新規日本株ポートフォリオの銘柄構成だけは、事前にきっちり固めておく。まずは臨戦態勢に入る準備段階での来日である。目先の日銀総裁・副総裁所信説明などは「セレモニー」として殆ど関心を見せない。
ドル円相場については圧倒的に円安予想が多い。93円など、まだ円高。
外から見れば、「少子高齢化で移民も拒み、自由貿易の流れには取り残され、構造的貿易収支赤字国の通貨」の通貨が100円から120円にまで売られても違和感はない。ユーロのボラティリティー(価格変動性)に慣れているので、ドル円の乱高下など、まだ「かわいいもの」と本音を語るファンド・マネージャーもいた。
日本人から見ると大胆とも思える予測に、彼らは抵抗感をさほど感じていない。円の「逃避通貨」としての役割に関しては、マーケットのリスクが嵩じたときの「雨宿り」程度に割り切っている。円に長居する気はサラサラない。
ユーロ円は、いわゆるクロス・レートで、あくまで欧米で最も取引が多いドル・ユーロとドル円の二元連立方程式の結果として捉えている。
「通貨戦争」論争に関しては、ガイジン投資家の本音としては、アベノミクスが円安政策であることは「状況証拠」により明白。
しかし、日本にもグローバル経済にカムバックして成長に貢献してもらわねばならず、ここは大目に見るべき、との論調だ。95円から100円までは渋々容認の構えと見た。
そして、ほぼ全員が最大にリスクとして懸念するのが日中領土問題。日本人より明確に"war risk"(戦争リスク)を意識している。
参院選で安倍首相が勝利し、右傾化を露わにするシナリオが語られるときに、その場で最も強い緊張感を感じた。
欧米から見れば、中国側の現場の挑戦的姿勢から生じる偶発的衝突は無視できない現実的且つ重大な地政学的リスクなのだ。日本国内での議論より頻繁に「戦争」という言葉が使われるところに、内外の温度差を感じた。
最後に、「これだけは持ちたくない」日本関連投資媒体として挙げられたのが、ほぼ全員一致で「日本国債」。
理論的な金利上昇の議論より、現場の感覚としては日本人機関投資家の"herd instinct"(動物的本能)とされる「横並び行動」が、保有日本国債の一部でも売却の連鎖を生む可能性を危惧する声が多かった。
それでも、総論は、日本株を買う方針。問題は各論。ポートフォリオのアロケーション(配分割合)だ。「ひさしぶりの日本株投資」ゆえ、社内の知見も限定的で経験者も去ってしまった。担当に配属されたガイジンたちも、当惑気味で半信半疑ながらも、上からのGOサインのもと、さまざまなシナリオを精査せねばならぬ。
チャレンジ(挑戦)であり、抑制された興奮がヒシヒシ伝わってきた。