豊島逸夫の手帖

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アラブの「春」から「夏」へ

2013年1月22日

昨年11月に中東を訪問したとき、最も痛切に感じたことは、現地人の生活感覚として、「アラブの春」が訪れても「若者の失業率は改善されず生活はちっとも楽にならない」という生の声であった。
折しも現地のテレビ、アルジェジーラはカイロでの民衆再決起の模様を果断なく伝えていた。
ムバラク政権が倒されても、「ムスリム同胞団」の影響濃い新政権は、国内に新たな緊張を生んでいる。エジプトに隣接するガザ地区で強い支持を得るハマスの母体がムスリム同胞団だ。ムバラク政権下ではガザ地区とエジプト領との間には「開かずの扉」があって断絶状態が維持されてきた。
しかし、いまや、その開かずの扉が開かれ、パレスチナとエジプトの距離が縮まることで、イスラエルは危機感を募らせ、「裏で糸を引く」シーア派のイランへの姿勢も一段と硬化させている。
同時にシリアとトルコ関係が悪化していることも懸念材料だ。
日本にいると遠い国の話だが、「世界の火薬庫」のリスクは間違いなく高まっている。
特に今回のアルジェリアの悲劇は、日本人含め「外国人」が標的とされた。
現地の日本人駐在員たちは、常に、「外国人」としてのリスクと対峙している。日常生活でも、例えば、自ら車を運転したがらない。
仮に自家用車を運転して追突されても、相手が現地人だと、罪は「外国人」にあるとされるからだ。
「外国人」の中でも、これまでは特に「アメリカ人」に対する反発が強かった。金融の世界でも「嫌米債」などと銘打ち、組成には米系金融機関が一切関わらず、米ドルとも一切接点のない債券で、金利を「不労所得」として認めないイスラム金融ゆえ、ゼロクーポン債の形をとる債券が発行されたりした。
ちなみに、「金」も金利がつかない「デメリット」がイスラムの世界では「メリット」とされる。アブダビ通貨庁は世界最大の政府系ファンドであるが、実質ウオール街出身外国人助っ人集団で、金市場では「暴れ者」である。今でも、高速度取引を利用して、成り行きで全買い、全売りなどのスイープと呼ばれる荒っぽい手法で価格を乱高下させている。
今回金価格が1700ドルを割り込み急落する過程では、彼らが3回スイープ売り攻撃を仕掛け、瞬間的に20-30ドルの下落をもたらした。下値抵抗線を力づく(カネづく?)で破ったという感じだ。そういう意味で、今回の金下落の「主犯」はアブダビ通貨庁である。

話はそれたが、日本人としてもエネルギーを依存する中東での「外国人」リスクが顕在化した事件として、テロの対して米英などと連携しての連帯を強める必要があることは勿論だ。
しかし、人命に関する意識に、英米と日本ではかなりの溝もある。
今回の第一報の段階で、カメロン英首相やクリントン米国務長官は、「人命の犠牲を最小限に留める」との表現を使った。テロとの戦いで人質の犠牲はやむを得ず、最小限に留める、という発想には、日本人としては違和感を覚える。
このような同盟国間での基礎的感覚の摺り寄せから今一度洗い直す必要があろう。

さて、国内金小売価格32年振り高値ということでNHKも昨晩の夜9時ニュースで特集報道してましたね。私のところにも昨晩だけで生出演依頼が3件も立て続きました。
でも店頭での顧客はまだ冷静なような気がします。
まずは安倍首相のお手並み拝見という姿勢でしょうか。
それでも、デフレ・モードからインフレ・モードへの劇的変化は、高値圏での買い取りばかりではなく顧客の新規買いを刺激するでしょうね。円安時代の外貨投資というカテゴリーに入るのでしょう。
中東リスクなども、今後、金価格の下支え要因(下がったときに支える要因)となる気がします。
今年のスキーシーズンは季節的越後湯沢移住計画もこのようなマーケット激動の中で断念しました(涙)。

2013年