豊島逸夫の手帖

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緩和縮小恐るるに足らず?

2013年11月25日

米株式市場は連日最高値更新中だ。
著名投資家アイカーン氏が株価バブルを予言しても、ここまで長短金利が乖離すると、イールド(利回り)を求める投資家の10年債購入も活発になりつつある。市場は、イエレン氏の「バブルにあらず」との上院公聴会発言を信じているようである。
「緩和縮小は引き締めにあらず」「緩和縮小恐るるに足らず」との見方も浮上している。
とはいえ、量的緩和マネーが実体経済に廻らず、ウォール・ストリートの株価と、メイン・ストリートの街角景況感には米国でも大きなギャップがある。
それでも、FRBのバーナンキ・イエレン組は、量的緩和による株価上昇による資産効果が経済成長を促すとの「株本位制」を金融政策の前提に据えている。

一方、市場は「Don't fight FED! 」=FRBとはケンカするな、との格言を忠実に守りつつ、粛々と株を買い進める。
「資産インフレか」とアナリストが指摘しても、マーケットとFRBは「資産インフレなら許容範囲」の姿勢に映る。原油急騰による「コスト・プッシュ」型インフレは国民生活に痛みを課すので困る。対して、景気過熱による「ディマンド・プル」型インフレは、量的緩和をやり過ぎた場合の合併症だ。しかし、インフレ率がFRBのターゲット2%を下回るような現状では、「ディマンド・プル」型のインフレ懸念が出るまでは「量的緩和継続による資産インフレ」も可、との暗黙の了解がFRBと市場の間にあるかのようだ。
最近は「ゴールディロックス」(適温経済)という用語も復活して、株価上昇の背景として語る向きもある。しかし、日米欧いずれも、金融当局の目標としているインフレ率を下回るディスインフレ状態が続いている。「熱すぎず冷たすぎず」というより、やや「肌寒く、金融緩和という暖房器具をしまうには早すぎる」ような経済温度なのだ。日米株式市場に春が来てもまだコタツはしまえない。
市場の春が夏になり、ディマンド・プル型の過熱インフレ懸念が顕在化するまでには、まだ2年から3年はかかる、とマーケットは読む。

その最たる例が、金価格の急落だ。
2011年には1900ドル超えの史上最高値をつけたが、足元では1230-40ドル台まで下落が加速。これは市場のインフレ期待低下を映す現象だ。
更に、金価格は中央銀行の金融政策に対する通信簿とも言われる。かつて日銀高官が金関連国際会議で語ったことでもある。
金はドルや円の代替通貨ゆえ、金融政策への不信が高まれば、自国通貨価値不安が民間の金買いを誘い、金価格は上昇する。
ゆえに、金売りは、金融政策への信任投票とも言えるのだ。
イエレン次期FRB議長候補を米上院は承認したが、ニューヨーク市場も金売りというカタチで承認を支持している。

また、米国債券市場も、イエレン氏の金融政策を先取りして動いている。
イエレンFRBのもとでは、短期金利は限りなくゼロに近い状態を維持しつつ、フォワード・ガイダンスで「緩和縮小から利上げ=引き締めへの転換条件および時期」を明示するという「市場とのコミュニケーション重視」の金融政策運営が予想されている。
そこで債券市場でも、短期金利のベンチマークである2年債の利回りは0.29%の低水準にあるが、長期金利のベンチマークである10年債の利回りは2.7-2.8%のレンジから下がらない。
結果的に、長短金利差が拡大して、イールドカーブ(利回り曲線)が立った(steep)状態が顕著である。これは、現在は景気に不透明感が残るが、将来の見通しが明るくなりつつある時期に見られる現象だ。
長期投資家にとっては、ディスインフレ状態で2.7%の利回りは魅力なので、この時期にイールドを求める10年債購入も増加している。
一方、ファンドの中には、いずれイールドカーブが今よりフラットに戻る(長短金利差が縮小)と読み、現在の金利差をロックイン(固定化して取り込んでおく)を狙うキャリートレードも見られる。

なお、外為市場では、イエレン氏の量的緩和継続姿勢と、ドラギECB(欧州中央銀行)総裁の緩和バイアスが、黒田日銀の異次元緩和による円安にブレーキをかけるリスクが生じている。
日米欧の緩和競争が進行する中で、黒田日銀がイエレンFRBを上回る追加緩和に踏み切らなければ、ヘッジファンドが「倍返し円買い」に走る局面も想定しておく必要があろう。

さて、日本株でも、23年前のバブル崩壊以降に積み立て投資した場合の評価額がついにプラス転換したそうです。
やはり、株でも金でも、最後に勝つのは積み立てなのですね。
なお、今日気になることは、防空識別圏の問題で日中関係の更なる緊迫と、シカゴ通貨先物市場にどか雪の如く積み上がったドル買い・円売りポジションの表層雪崩の可能性ですね。これについては、別途書くことにしましょう。2014年市場展望を書く時期になりましたが、チャイナ・リスクが外せません。

2013年