2013年5月10日
「100円突破は時間の問題」と思われたが、焦らされ、論調も「100円の壁」に変わり、性急な100円論はためらわれる雰囲気になりかかったタイミングであった。ミセス・ワタナベもドル売り・円買いに傾いていた。
国内から見れば、やっと円高の呪縛から抜け出たことを象徴する100円の節目突破である。
その間、欧米市場では、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長職を去るジム・オニール氏が今後18カ月のドル円レンジを100-120円と予測していた。(日経マネーのコラム5月7日づけで既報)。
国内では「100円の壁」が意識されている時期に、海外ではレンジの下値を100円とする見方が台頭していたわけだ。
昨日の本コラムで紹介したSOHN投資会議でも、著名ヘッジファンドのデビッド・アインホーン氏らが、「円ショート=売り」を実行中と明言していた。
この微妙な内外温度差は、やはり、日本側が円高の呪縛から抜け切れなかったことを意味するのだろう。
だからこそ、最後の一押しは米国側から来た。
9日発表の新規失業保険申請者数は3週連続で35万人を下回り、先週金曜日の米国雇用統計好転サプライズをキッカケとする新たなドル買いの流れを加速させることになったのだ。
さて、問題は、次の一手。
欧米では、ヘッジファンドが「日本円ショート=売り持ち、日本株ロング=買い持ち」のモメンタム(市場の勢い)に素直に乗ってゆく構えだ。
円売りが「hottest trade on the planet」(惑星上で最もホットなトレード)などと誇張された表現で語られている。
マクロ経済的に見ても、9日のニューヨークの取引所フロアーには、好調な雇用関連統計に触発されたかのような「FRB量的緩和縮小説」が流れていた。そうなると、量的緩和(QE)の出口を模索するFRBと、新たなQEの入り口に立つ黒田日銀の対比が鮮明となり、「クロダには逆らうな」とのムードが支配的になる。
SOHN投資会議では、QEそのものの政策有効性に対する懐疑論が目立ったが、だからこそ、黒田日銀のQEが本当に日本経済を転換させるか、壮大な実験へ注がれるホットな欧米投資家の眼差しが伝わってくる。
筆者のスイス銀行での国際通貨投機筋としての体験から見ても、市場の意見が分かれるときは、ボラティリティー(価格変動性)が強まり、投機筋にとって格好の草刈り場となりがちなもの。
シカゴの国際通貨投機筋の円売りポジション残高は減少傾向だったので、市場の地合いとしては、新規の円売りポジションが再度構築されやすい市場環境だ。
「100円の壁」が一夜にして「100円のフロアー=床」に変身しつつある。
なお、100円の節目突破は、「オフサイド」と判定されるリスクも孕む。通貨安競争を刺激することは必定だ。今週末の主要7か国(G7)財務相・中央銀行総裁会議における参加国の反応が注目される状況になってきた。
なお、金価格は円建てで下がりにくく上がりやすい状況となろう。
ドル建て金価格はこう着状態だ。