豊島逸夫の手帖

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バーナンキ発言 英文解釈に揺れる相場

2013年7月11日

日本時間7月11日早朝のバーナンキ講演(米東部マサチューセッツ州、ケンブリッジ)における質疑応答セッションに市場は強く反応した。「現在の失業率7.6%という数字は労働市場の健全性を過大評価している可能性がある。インフレ率はFRBが目標とする2%を下回っている。低すぎるインフレは好ましくない。更に、財政政策は緊縮的にならざるを得ない」と断言したうえで「for the foreseeable future=当分、強めの金融緩和政策が必要だ」と語ったからだ。
6月19日の記者会見で「later this year=今年後半には資産購入ペースを減速。来年半ば頃には資産購入を 終了」と具体的緩和縮小スケジュールにまで言及し、「バーナンキ・ショック」を市場に与えたときに比し、トーンがかなり異なる。
経済見通しについても、そのときは、下振れリスクが「diminished=減った」と、それまで使われなかった単語で明確に表現したので、FRBが楽観的であるとの印象を与えていた。
それが、今回は下振れリスクを改めて指摘している。
明らかに、6月19日発言のショック効果を和らげようとの意図が読み取れる。
市場は俄かに「安堵相場」の様相となった。

ドル円は質疑応答前の100円40銭から、一気に99円50銭前後にまで円高に振れ、アジア時間に入り、98円台-99円台で推移している。
米国量的緩和縮小観測に特に強く反応して売られ一時は1200ドルの大台を割り込んだ金価格は、1250ドル台から1280ドル台にまで急騰して、息を吹き返している。

とはいえ、現地7月10日にバーナンキ講演に先立ち発表された6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事要旨では、「several=3-4名」の投票権を持つ理事が緩和ペース減速を唱えたが、「many=多くの」理事は、「労働市場の更なる改善を見極めたうえで緩和縮小すべし」との意見であったと記されている。更に、投票権を持たぬ理事も含め19名の「about half=約半数」が、年末までに資産購入終了を望んだ、とも記されている。
FOMC内での、タカ派とハト派の亀裂が鮮明だ。
FRB議長という「まとめ役」としては、6月19日のタカ派的トーンの発言に対して、7月10日にはハト派の意見を強く滲ませて、バランスをとったということか。
6月19日の記者会見後には、米国CNBCの専門家調査によれば、緩和縮小時期を12月から9月へ前倒しとする意見が38%を占めた。それが、今回の発言で再び12月あるいは、来年前半までQE3継続との見方が増えそうな成り行きである。

俯瞰すれば、基本的な「緩和縮小」の方向性は不変だが、開始時期については、今後に予定されているバーナンキ講演・記者会見発言で、まだ大きく振れる可能性を残す。
更に、「緩和縮小」と「引き締め」との弁別も必要だ。
緩和縮小が仮に年内に開始されても、基本的には金融緩和政策は継続される。それが「利上げ」という「引き締め」に転換する時期については、失業率が6.5%を下回るほどに米国経済が好転したとき、ということで2015年6-7月との見解が多い。しかし、今回の質疑応答では、失業率が6.5%を下回ることは引き締めへの転換の「条件」ではなく、「threshold=敷居」であるとの表現を改めて強調している。6.5%を下回っても、それで即、自動的に引き締め開始とはならず、持続的な景気回復が確認されるまでは、金融緩和政策を継続する、との姿勢を明確に打ち出しているといってよいだろう。
英語でtaper(緩和逓減)とtighten(引き締め)との違いが、今後の市場では強く意識されることになろう。

2013年