豊島逸夫の手帖

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円高95円突破のリスク・シナリオ

2013年9月2日

リスク満載の9月相場入りだが、売買決断を迫られるマーケットの現場で悩ましいことは、それぞれのリスクのベクトルが異なるので、総合的な市場の方向性が計りにくいことだ。
そこで、資産運用面では、まずアベノミクスにとっての具体的なリスク・シナリオを考えておく必要があろう。
それは円高の進行だ。
オバマ大統領がシリア軍事介入について米議会の承認を求める決定をしたことで、比較的安全とされる円を買う動きの切迫感は後退した。

しかし、9日から再開される米議会では、当初、連邦債務上限問題がまずは優先順位の高いアジェンダとして大統領との駆け引きが展開されるはずであった。
8月27日には、ルー財務長官が「10月半ばにも連邦債務が上限を超える見通し。手元残高は500億ドル程度と一日でなくなっても不思議はない額になる」と発言して、マーケットにサプライズを与えた。市場は10月半ばから11月半ばの期間と予測していたので、時期が早まった印象を与えたからだ。
オバマ大統領も、議会に対して「駆け引きの余地はない。できるだけ早い機会に議会の承認を求める」と述べ、危機感を露わにしていた。

しかし、突発的に浮上したシリア軍事介入問題が、再開する議会にとって、まず取り組みを迫られる最優先順位アジェンダとなった。
こうなると、以下のリスク・シナリオを考慮しておく必要があろう。
まず、米議会内でも賛否両論あるものの、オバマ大統領が結局、シリア限定空爆に踏み切るケースだ。ケリー国務長官も、最悪「議会の承認なしでも実行可能」と述べている。この場合は、円が安全通貨として買われよう。

更に、債務上限問題が先送りされると、マーケット内には2011年に、ネジレ米議会の先送り体質が、米国債格下げを招いた記憶も鮮明に残っており、ドルが売られ、結果的に円高が加速する。
そして、トリは16、17日に開催されるFOMC。ここのところ米国マクロ経済指標が上に下に振れており、6日に発表される米国雇用統計で事前予測より悪い数字が出ると、市場は一気に「緩和継続」説に傾き、ここでもドル安・円高が顕在化する。9月量的緩和縮小説に乗って円売りの持ち高を積み上げてきた投機筋は、ポジションの巻き戻しを強いられよう。
以上、書いてきたことは、あくまでリスク・シナリオだが、現実化すれば、93円台までの円高は覚悟すべきと考える。
冒頭にも述べたように、9月リスク目白押しで、そのベクトルが異なる場合には、まずはリスク・シナリオを精査し、ヘッジを講じておくべきだろう。

更に、シリア限定空爆と国内消費税論議が同時進行すると、原油高と円高が日本経済に与えるマイナスの影響が、消費増税議論でも意識される可能性もある。
日本は中東問題については距離感を置いて受け止めがちだが、今回ばかりは、「対岸の火事」とは片づけられない。
なお、中東・新興国不安で、イスタンブールがオリンピック開催候補地として不利になる印象が生じていることは、結果的に東京開催に有利に働いている、という面も無視できまい。

週末は、猛暑の渋谷ヒカリエの隣で、「草食投資隊セミナー」をセゾン投信社長中野さんと二人でやりました。
会場は投資信託の長期投資派と、金の長期投資派(短期投資派もいたかな 笑)の二手に分かれて、でも、投資に対する姿勢は共有しているという感じでした。私は日本の証券市場に対する辛口コメントを連発してストレス発散(笑)。金に関しては、例によって、短期弱気、長期強気の話。中締め後、ブログ読者の方々と、直接、和やかに歓談出来きたことが良かったな。9月リスクのことも述べましたが、9月16,17日のFOMCの当日はNYに出張して、NYSE(ニューヨーク証券取引所)のフロアでジム・ロジャーズと対談します。これは、かなり面白そうな企画です。
昨日のセミナー後は、中野さん50歳のサプライズ・パーティーを渋谷駅の反対側で。私も知らされていなかったので、軽く食事しようというノリで中野さんと指定場所にいったら、50人くらいが一斉に「サプライズ!!」。共通の友人も多く、賑やかな楽しい時間でした。

2013年