豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. FOMCを前に金急落、シリア混沌
Page1480

FOMCを前に金急落、シリア混沌

2013年9月13日

金価格は来週FOMCでいよいよ緩和縮小か、という雰囲気の中で1320ドル台まで売り込まれた。昨日も書いたように、一度売って買い戻して1400ドル前後まで戻って、ふりだしに戻ったところから、再度の売り攻勢。
1400ドル前後では買う気が起こらなかったけど、1200ドル台になったら買い下がりたい。

シリア情勢もまだ不気味だ。
プーチン大統領の得意な柔道にたとえれば、オバマ大統領が一本を取りにいったところを、カウンターで「有効」のポイントを奪った、というところか。
ジュネーブで現在進行中の米露外相会談に至る過程では、外交イニシアティブをほぼロシア側が握っている。
「ノーベル平和賞受賞者オバマ氏」が計画するシリア軍事介入、というプーチン氏の言い回しは、あたかも彼が同賞を狙っているかの如き印象すら与える。
皮肉なことに、シリア情勢打開模索の鍵を米国議会承認から引き離すキッカケはケリー国務長官の記者会見でのこの一言であった。
「軍事介入を回避できるとすれば、アサド政権が化学兵器を廃棄する、というあり得ない(unlikely)ことが前提となる。」
その発言を待ってましたとばかりに、「それでは、我が国がシリアを説得して化学兵器を国際管理下に置かせよう」とロシア外相が提案。
オバマ氏も、「シリア軍事介入に米国民の理解を得る」ためにプライム・タイムのテレビに割って入った国民向けの演説で、外交的解決の道は望ましく、ロシアの提案を検討する用意があることを語らざるを得なかった。
同盟国や米議会・米国民の支持を得るために苦戦しているオバマ氏にプーチン氏が救助の浮き輪を投げたかのようだ。

更に、米国で911同時多発テロ関連行事が相次いで行われているタイミングを計ったかように、プーチン氏がニューヨーク・タイムズ紙に署名寄稿。「軍事介入は新たなテロの波を招く」と「白馬の騎士」のトーンで、「世界平和を求める」自身の考えを披歴した。
そして、ロシアのテレビ局インタビューにアサド氏が登場。化学兵器保有の事実を初めて認め、国際管理下に置くことに同意すると発言した。これは「米国の脅威に屈するのではなく、ロシアに激励されてのこと」とのコメントを加えるのも忘れなかった。
そこで、シリア問題は、化学兵器保有実態の解明、現地査察、廃棄方法などの、現実性更に具体的手段を米ロ外相会談そして、いずれ国連の場で協議検討する新段階に入った。

しかし、各論となると、国連職員まで巻き込まれる内戦状態のシリア国内で、いかに総量1000トンに達し、国内に分散保管されているといわれる化学兵器の実態を確認するのか。廃棄法は、リモートコントロールで遠隔地での処分ということだが、少なくても2-3年はかかるという。
この困難なプロセスが不可能であれば軍事介入やむなしとするオバマ氏と、軍事介入不可とするプーチン氏の間には決定的な溝がある。
結局、シリア問題の長期化は避けられない。
「モスクワとダマスカス、オバマの足すくう」というシリア半国営新聞の10日朝刊見出しに、アサド大統領の本音が透けて見える。
アサド政権崩壊なくして、シリア問題の根源的解決はない。
そのアサド政権は時間稼ぎで延命の様相だ。

大局的に見れば、シリア紛争は、アサド政権を支持するロシア・イランと反体制派を支持する米国・サウジアラビア・カタール・トルコの代理戦争化している。そこには米ロ関係のミニ冷戦(8月27日付け本コラム「シリア巡る米露ミニ冷戦切迫化年」参照)と、イスラム教シーア派(イラン)とスンニ派(サウジなど)の二つの対立の構図が複合的に絡んでいる。
そこで、注目されるのがイランと中国の出方。
習近平中国国家主席は、第13回上海協力機構首脳会議出席のため、10日にキルギス入りした。そこではイランの新大統領も参加するもようだ。
化学兵器のレッドラインを越えたシリアと核兵器のレッドライン越えが懸念されるイラン。その渦中で取り残されたかのような「孤独感」に襲われているイスラエル。
シリア紛争の中東全域への波及の可能性を注視する必要がある。

2013年