豊島逸夫の手帖

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TPP,尖閣にからむ円安問題

2013年5月13日

「100円突破布陣 日銀新人事案」(本コラム2月25日付)に「95円から100円までの道程では、各国通貨当局と市場を納得させられる通貨外交と市場とのコミュニケーションの合わせ技が最も重要になる。黒田氏は通貨戦争の懸念をやわらげつつ100円を実現できる人物といえよう。」と書いた。
そして先週末G7の実質的前夜とも言えるタイミングでの100円突破。会議直前に、米国ルー財務長官も「目を光らせる」という表現で日本に対して牽制球を投げてきた。これは「オフサイド」との判定も必定と思われた。会議後、カナダのフレアティ財務相も、為替相場に関する議論の中で「懸念の表明があった」ことを認めている。
しかし、最終的には、足元の円安には「暗黙の了解」(フィナンシャルタイムズ紙)が得られたと市場では理解される結果となり、麻生財務相は「日銀の金融緩和や円安に対して批判的意見はなかった」と会議後の記者会見で語り胸を張った。
黒田日銀総裁の「通貨外交能力」と「市場とのコミュニケーション・スキル」が期待どおりの働きをした結果、「オフサイド」か否か「写真判定」の末、事なきを得た、と素直に評価すべきと思う。
G7以外のインド、オーストラリア、韓国、ニュージーランドなどが、既に「競争的」とも解釈できる金融緩和に動いているが、ここは前アジア銀行総裁時代の経験・人脈が発揮できる分野であろう。

冒頭に引用した本コラム記事の翌日には、筆者のスイス銀行時代の元同僚など国際投機筋の間では「Don't fight Abe」アベには逆らうな、という言葉がキーワードとなりつつあることを紹介して「まだ安倍相場は若い」と書いた。それが、いまや市場では「クロダには逆らうな」と、アベからクロダに変わった。市場とのコミュニケーションにも勝っているわけだ。
そして、100円を突破した円安相場も、日経平均14000円を突破した日本株相場も、「まだ若い」。
心理的節目となる100円を突破したことで、「100円の壁」が「100円の床」となり、第二波円売り攻勢を仕掛けるヘッジファンドに安心感を与えている。日本株も海外のリアルマネーには厳しい見方もあるが、日本国内では初心者レベルの個人投資家の新規参入意向が顕著になっている。まだ投資知識不足による不安感から乗り遅れたと感じている人たちが大部分だが、マネー誌が完売で書店店頭から消失し異例の増刷となるほど知識欲は旺盛だ。筆者の体験でも、近所のお肉屋さんのご主人が惣菜コロッケ揚げながら、マネー誌を読む光景に遭遇したとき、「安倍相場の本番はこれから」と実感した。

但し、円安については、米自動車大手3社で構成する米自動車政策会議(AAPC)がドル円100円突破後の緊急声明で「円安が、TPPから日本を除外する根拠になり得る」と表現していることが筆者の目を引いた。ロビー団体による若干威嚇的言い回しではあるが、円安が日米外交アジェンダ(問題)となり、今後、TPPや尖閣、沖縄問題を巡る交渉で、米国側からギブ・アンド・テイクの「ギブ」(譲る点)の一つとしてカウントされる可能性を示唆しているからだ。
外交とは、結局、「譲る点」と「譲れない点」の妥協点を探る交渉事だ。深読みすると、米国サイドが、今回のG7で、バーナンキFRB議長が欠席するなか、日本の通貨安競争批判を避け、ルー財務長官の牽制球に留めたのは、外交上の「切り札」の一つを温存した、とも読める。
10日付のウオール・ストリート・ジャーナル紙は、「日中の危険な亀裂」と題する長文の記事を掲載した。そこでは、相撲力士と竜のイラストに、尖閣問題はどの中東問題より危険になりうる、と書かれている。日中間の歴史を詳細にわたり説明したうえで「日本が米国の手先となり、日本は右派の好戦的発言でうっぷんをはらす現状は、米国にとっても、更なる緊張の源となろう。最終的には日中間でバランス・オブ・パワーが見出され、そこから米国は段階的撤退をも意味する」と結ばれている。
通貨戦争も領土紛争も、外交上は同じ土俵で、包括的に論じられる可能性を感じる記事であった。

なお、金価格はドル高で先週金曜日には急落後、急騰。今朝はまた急落。1420-1450のレンジで推移している。
ドイツ銀行は、2013年の金価格平均を6%引き下げ、1533ドルと発表した。
国内価格は引き続き為替主導。

週末は、今週水曜日に渡米してコネチカットのエール大学で対談するロバート・シラー教授の著作を読んでいました。CMEのアドバイザリーもやっていて、商品市場の事も分かっているようで、実務派の学者みたいな感じ。
あとは、ひょんなことから、保育問題評論家(笑)にもなり、こんな原稿も書いてました。↓


キッカケはアベノミクスで保育園増設に乗って保育園株が5倍くらいに跳ね上がっていること。それで。。。。

安倍政権の保育園を増やそう、という発想は良いのだが規制緩和して企業がかんたんに保育園を運営できるようにしよう、という発想は、ものの分かった保護者は反対だろう。

保育園企業で代表的なのはJPホールディングスだが、経営者は規制緩和の話ばかりしているようだ。

保育園でいちばんコストがかかるのは人件費だから、「規制緩和」=「人手減らし」=「保育士ひとり当たりの子ども数増加」=「ケアが行き届かないこと」を意味する。川崎市や豊島区など、過去に子どもの死亡事故につながった例もあるので、保育園の規制緩和は慎重にやらないと、命にかかわる。

待機児童が多い中、小規模保育園を増やしてしのごう、という話もあり、現実的には仕方ないと思うが、実際に幼児を育てている立場の本音は、庭がないマンションの一室みたいなところでは、子どもはエネルギーを持て余していらいらしてしまうということだろう。

理想をいえば、子ども予算をもっと増やして(数千億円とケチなことを言わず、1兆円規模で)、今の公立保育園レベルの、ちゃんと庭があって、それなりに広さと人員を確保できる保育園を増やすのが望ましい。

ちなみに、要介護4の老人が、現物支給ベースで月40万円相当の介護サービスを受けている。都心でゼロ歳児保育をすると、月20万とか30万と言われる。どちらもお金がかかるが、女性の就労とか少子化対策というなら、老人にお金をかけて子どもにかけない現状はおかしいと思った。


それから、ガラッと異次元の話で、今晩出演の日テレ系「深イイ話」のHP↓に載っています。
http://www.ntv.co.jp/fukaii/


いろいろ活動範囲が広がっているのは、やはり、日経電子版(会員数が150万人くらいになったか)に書いているコラム「金のつぶやき」がよく読まれているからだと思います。
先週も5月9日には全日総合アクセス数で1位の記事になりましたし、10日には同2位に入ってます。ここは、金投資家以外の読者なので、セグメントが全く違いますね。そもそも金のことも私のことも知らなかった人たちですから。

2013年