豊島逸夫の手帖

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通貨安競争の弊害

2013年6月17日

「金投資の新しい教科書」(池水雄一著)を薦めます!
日本経済新聞出版社から出版されました。相場が不透明性を増す中で「基礎に戻って考える」には格好の書です。池水雄一氏(ニックネーム=ブルース)は私の良き後輩のディーラー。実は彼を日経出版に紹介したのも私でしたので、売れないと困ります(笑)。
金の本といえば、金の実務体験もないストーリー・テラーが書く怪しげな本が多いので、逆にこのようなオーソドックスな書は貴重ですよ。

1431a.jpgさて、今日の本文へ。 自国通貨安になると、自国製品の国際競争力は相対的に強まるが、外国資本の海外流出を招くリスクもある。
この国際経済学の一般原則を新興国がいま、苦くかみしめているところだろう。
通貨安競争の最大のライバル視された日本円が円高に振れたことは貿易面では有利な状況になるはずだが、ドル円の異常なボラティリティーがリスクオフを加速してリスク性の高い新興国への投資マネーの流出を誘発している。
特にインドのような内需型経済国は経常収支赤字というアキレス腱をかかえるので、自国通貨安の輸出競争力上のメリットより、資本流出のデメリットのほうが大きい。そこで、最大級の輸入品目である金に対する関税を段階的に8%にまで引き上げ、国際収支赤字減らしを図っている。(ちなみにインドは金の最大需要国なので、この要因が金価格の上値を重くしている。)

新興国に流入していたグローバルな緩和マネーの浮動性を強く感じていたのが、在シンガポールの著名投資家ジム・ロジャーズ氏だ。
過去2年間の7回にわたる筆者との対談で、常に新興国へのエクスポージャー(投資)はショート(売り)と断じていた。これからは新興国の時代と読み、一家そろって米国からシンガポールへ移住し、娘を中国人学校に通わせるほどで、新興国投資のアイコン的存在の人物ゆえ、その理由を尋ねれば、常に「too crowded混みすぎている」の一言。7回目の最新対談でも、still too crowded(まだ混みすぎだ)と答えた。
だからといって、新興国を見捨てたわけではなく、長期成長段階のスピード調整との基本的見解だ。
円が100円の接近している時点での対談では、「円売りはしていない」とも淡々と語った。その理由は、円売りポジションが、やはり「混みすぎ」ということであった。
しかし、中長期的には円安だと断言している。但し、その理由は、少子高齢化で移民も拒む国の通貨は買えない、という「悪い円安」であったが。

なお、5月にニューヨーク証券取引所のフロアーを訪問したときも、トレーダーたちに「最も投資したくないセクター」を尋ねると、「新興国」という答えがはね返ってきた。
本コラム1月8日付け「2013年世界のリスク発表」にて、ユーラシア・グループがみる世界のリスク、トップ10の第一位は「新興国」であった。
欧米市場が、米国量的緩和縮小の可能性に過敏に反応しているのも、世界にばら撒かれたマネーが回収されるときの「痛み」が先進国のみならず新興国により強く感じられるからであろう。
高度成長から巡航スピードへの減速は、新興国内では特に心理的に強く感じられる。例えていえば、高速道路を120キロで走ったあとで、一般道路に降りると、時速60キロでもノロノロ運転のような錯覚に陥るものだ。
消費マインドは慎重になりがちなのでで、輸出主導から内需主導への転換を目指す経済にとってはやはり痛手である。
なお、ユーラシア・グループが指摘しているように、もはや「BRICs」や「新興国」とひとくくりで語ることはできない。その多様化にも注意を払うべきであろう。
ちなみに、ジム・ロジャーズ氏は、新興国の中でも(2年前に彼自身が薦めていた)ミャンマーは既に混んでいるとして、ロシアや(長期的に南北統合の可能性まで視野に入れれば)北朝鮮に注目している。

さて、先日は庭の梅の収穫をしましたが、先週末は福島の「フルーツライン」にある「紺野果樹園」でさくらんぼ採りしてきました。
木の上のほうの太陽のあたる枝に成っているのが、赤くて特にジューシーですね。

1431b.jpg今年はやっと風評被害から脱出できてきたとのことでした。
オーナーが経済問題にも詳しくてブログ読者なので、紹介してくれた郡山の友人と3人でさくらんぼ園で経済談義しちゃいました(笑)。

あとは、山超えて会津側の「ぼなりゴルフ」へ。ここは、日経プラスワンの「一度は行ってみたいゴルフ」ランキングで東日本2位にランクされ、ゴルフダイジェスト誌(米国版)では、世界の景色のきれいなホールのトップ10にランクされた名物パー5があります。左に磐梯山、右に安達太良山の火口が目前に見え、とにかく高圧線などの、人工物が目に入らないのがいい。私が今、一番気に入っているコースです。スコア?それは忘れた(否、忘れたい 笑)。そんな些細なことより雄大な景色に圧倒されます。
そのあと、昨晩は、NHK大河ドラマで、二本松少年隊の悲劇を見て、思わず泣いてしまいましたよ。
ぼなり(母成)も、戊辰戦争で母成峠の戦いがあったところだったし。

それから、今日午後5時(再放送 午後7時半)から、生出演で日経CNBCに出ます。日経朝刊の番組案内にも内容が書かれていますが、金価格動向の勘所について。

2013年