豊島逸夫の手帖

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アベノミクスの試練 ローマ発円高株安

2013年2月26日

日本が黒田次期日銀総裁候補報道一色の中、週末からの欧米市場の目はもっぱらイタリアに向いていた。
日本人の発想では、イタリア総選挙が、なぜ24時間で3円もの円高をもたらすのか、分かりにくい。
しかし、イタリアの国債残高は約2兆ユーロ。独仏を上回り、日米に次ぐ世界三位の規模なのだ。ギリシャやスペインとはメジャーリーグとマイナーリーグほどの差がある。
その国が、欧州債務危機に巻き込まれ、2011年には国債利回りが一時は7%という危機的水準を突破した。
しかも、当時の首相ベルルスコーニ氏の買春、脱税スキャンダルが発覚。最終的には辞任に追い込まれ、その後、モンティ首相率いる実務者内閣が就任。緊縮政策、構造改革を受け入れ、市場でも、その堅実ぶりが評価され、イタリア国債利回りも4%台にまで低下した。
しかし、結局は、人生エンジョイ派のイタリア国民に、痛みをともなう構造改革は受け入れられず。代わって、復活したのが、なんと、あのベルルスコーニ元首相。
国民の心を掴んだのは、なんと「脱税犯の恩赦」とモンティ首相が2012年に導入して国民の不興を買った不動産税廃止と納税分の現金還付という切り札。
ベルルスコーニ氏の脱税容疑を「水に流す」という風潮は、イタリア独特の現象だ。
イタリア財務省の推計では、年間脱税総額が1200億ユーロ(約14兆円)に達する。スイス銀行口座に租税逃避している額だけでも1000億ユーロを超すという。
筆者も再三目撃したことがあるが、スイス国境に近い都市で開催される宝飾見本市会場周辺では「イタリア版マル査」の集団が厳重に監視している。脱税が国民の「娯楽pastime」とまで表現され、そもそも罪悪感が薄い。
政府は国民に奉仕する存在ではなく、搾取する組織と認識され、脱税は市民の「防衛手段」と解釈される。選挙ともなれば、「脱税者」たちが有力な票田となる国柄なのだ。
そのベルルスコーニ氏率いる中道右派が、開票率99%の段階で、下院では得票率一位の中道左派29.6%に肉薄して29.2%もの得票を得ている。下院は得票率一位政党が54%の過半数を得るイタリア独特の比例代表制だが、ベルルスコーニ氏の中道右派は、得票差は「統計的誤差の範囲内」ゆえ、「勝者を決めるのは不可能」と主張。
更に、コメディアンでブロガーであるグリッロ氏が3年前に旗揚げした「五つ星運動」が単独党では最高の得票率25.5%を得ている。同党は草の根運動で民衆の不満の受け皿になっている。
上院では州ごとに一位の政党に55%の過半数を与えるという、複雑な選挙制度なのだが、こちらでは、ベルルスコーニ優勢の州が目立つが、過半数には達していない。
一方、モンティ陣営は惨敗。上院の議席が20程度にとどまる見通しで、連立政権参加対象にもならないようだ。
ここまで緊縮・構造改革路線が否定され、しかも再選挙の可能性も視野に入り、「ねじれで決められない国会」となると、国際金融市場には俄かに不安が高まり、リスクオフの様相だ。
NY株はイタリア要因で大きく下げ、外為市場ではユーロが売られ、ドル・円が逃避通貨として買われるという、既視感の強い相場展開となりつつある。
相対的安全性を求めるマネーが米国債・金に流入という現象も生じている。

しかし、これで構造的円安が変わるわけではない。
投機筋の円売りポジションが手仕舞われる「調整局面」である。
今の円安は二層構造だ。貿易収支赤字化にともなう「実需のドル買い、円売り」という「根雪」の部分と、ドカ雪の如く積もった「投機的円売りポジション」から成る。新雪の部分は、「イタリア選挙不安」という物音だけで表層雪崩を起こす。雪崩で根雪がむき出しになったところに、再び、新雪が積もってゆくだろう。
アベ・トレードは今やソロス氏はじめヘッジファンドの間では、最もホットな取引である。彼らは、円が買い手仕舞われ円高に振れたところで、再度、円売り攻勢を仕掛け、波状攻撃を繰り返す。
筆者のスイス銀行時代の元同僚の国際投機筋の連中の間では、Don't fight FRB(バーナンキには逆らうな)をもじって、Don't fight Abe (アベには逆らうな)という言葉がキーワード(buzz word)として囁かれる。
未だ、安倍相場は若い。

さて、昨晩はラジオJ-WAVEに生出演。30分ほど、通貨安競争とか日銀総裁人事について語ってきました。

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六本木ヒルズ32階のスタジオ風景


リスナーは20-30代が多いとのこと。
ニコ生とか、TBSよるべん、とか、若者対象番組出演が増えています。彼らが経済に興味を持つことは良いことなので、私も積極的に出てゆきます。

2013年