豊島逸夫の手帖

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イタリア混沌 日本への警鐘

2013年2月27日

イタリアは「通貨戦争」の蚊帳の外にある。国内経済がマイナス成長になっても、ユーロという地域統一通貨を導入したゆえに、独自の通貨政策を採れない。外為市場の荒波に晒され翻弄されるユーロ相場に身を委ねるしかない。自国通貨安による輸出競争力の改善という切り札を奪われると、国民が身を削る構造改革の痛みに耐えることで経済の基礎体力を鍛えねばならぬ。しかし、イタリア国民の我慢も限界に達したところで総選挙が行われた。
筆者のイタリア人友人は「アベノミクスが羨ましい」と言う。「元イタリア中銀総裁のイタリア人がECB総裁なのに、イタリアの国益が優先されることはない。」と嘆く。彼に言わせれば日本は「デフレ脱却という口実のもと、露骨な口先介入で円安を誘導できる」。

しかし、アベノミクスの真価が問われるのはこれから。日本国民が構造改革の痛みにどこまで耐えうるのか。いわゆる「構造改革」というネーミングを「成長戦略」に変え、パッケージも変えたが、中身はほぼ変わらない。この国民に痛みを強いる産業・貿易の自由化・効率化そして増税こそが、イタリアが直面している問題でもある。ちなみに、イタリアの消費税はこの1年で20%から23%へ段階的に引き上げられる。
国内経済の構造にも類似点がある。イタリアは経済的に貧しい南部を、産業基盤を持つ北部が支える構図で、この国内南北格差が諸々の摩擦を産む。日本では、都市部が農村部を支えている。
ねじれ国会も日本ではお馴染みである。
そして、イタリアの財政はプライマリーバランスが黒字だ。その国が発行する国債の利回りが、選挙直後から急騰した。

日本人にとって、イタリア政局・経済混迷は他人事ではない。
インフレ・ターゲットにしても、直ぐに物価上昇という効果を国民が感じることはできない。その成否が判定できるのは、2年程度先の事となる。半年たっても一年たっても、数字で効果が出なければ、国民は焦れるだろう。そこでどこまで待てる心の準備が出来ているか。

ドラギECB総裁は、金融政策の運営について「無期限の国債買い取りに応じる用意がある。Believe me! 私を信じなさい」と大見得を切った。
仮に、次期日銀総裁が「私を信じなさい」と記者会見で発言したとして、日本国民は、その言葉をまともに受けるだろうか。
支持率70%を超えた安倍政権を本当に信じて2年間過渡期の痛みに耐え、首相についてゆく覚悟が出来ているのだろうか。
イタリア国民の改革疲れは、日本への警鐘として受け止めねばなるまい。
自国通貨を維持している日本のほうが、円安急速進行の麻酔効果で、痛みがイタリアより緩和されているのかもしれない。

なお、アテネの最新「国民の痛み」の例を紹介しておこう。
「エーゲ海にもスモッグ」。アテネの友人からのメール件名だ。
アテネでも大気汚染が深刻。空気中の有害物質が基準値の4-5倍になる日が少なくないという。次回、アテネに来るときには、日本製マスクを買ってきてほしいとの依頼であった。

その原因が、暖房用薪の復活。
アテネの冬は寒い。筆者が昨年2月に行ったときも雪だった。
その寒さの中で、ギリシャ政府は、財政赤字削減策の一環として燃料税も増税し、その結果、暖房用油の末端価格が4割も上昇したのだ。
この増税の背景には、安価な暖房用燃料油を車輛用燃料油に混ぜて売る悪徳商法が後を絶たぬという実態もある。

そこで市民が代替燃料として目をつけたのが、燃費が油に比し5分の1で済む薪。薪ストーブの復活だ。更に、室内装飾用の暖炉も急に実用化されたものの、室内が煙だらけになるらしい。
更に、薪でさえ買えない市民も多く、地方では違法伐採事件も頻発している。実態としては、多数のオフィスやアパートのセントラル・ヒーティングは止まったまま。筆者の友人は歯科医なのだが、コート着たまま勤務も珍しくないと嘆く。

さすがに日本ではありえない話に思えるが、電力不足が極限に達すれば、冬はコート着たまま勤務というのも、絵空事とは言い切れないだろう。

さて、金価格が30ドル以上急反発して1615ドル前後まで戻ってきました。
バーナンキさんが、昨晩、半年ごとの議会証言で、「量的緩和継続」を明確に表明したからです。金市場は、FOMCのQE早期終了派の動きに怯えていましたから、まさに「干天の慈雨」でしたね。昨晩、ネットでバーナンキ証言中継をずっと見てましたけど、金融政策を決めるのは、この私だ、みたいなオーラが出てましたよ。
一方、プラチナは欧州危機再燃のニュースには弱いですね。金とプラチナ価格スプレッドが一時は100ドル近くプラチナ高に拡大したのですが、アッという間に、ほぼ同水準に戻ってしまいました。
円高に振れているので、さすがに円建て金価格の上げピッチは為替で相殺されてきました。

尚、金関連ニュースとして、イランの核開発を巡る米英ロなど6か国会議で、軍事転用可能なウラン濃縮施設の閉鎖の見返りに、イランの金や希少金属取引に対する制裁を緩和する新たな提案がイラン側から出てきたようです。

昨晩は、イタリア情勢急変ということで、急きょ、テレビ朝日の報道ステーションにビデオ出演してきました。金とは関係ない話ですが、30分ほど、カメラの前で喋って、OAは20秒くらい。いつものことで、慣れてます(笑)。
報道ステーションの部屋中に視聴率15.1%達成!とかの紙が貼られてました。やっぱり、視聴率が全てなのですね、あの世界は。

2013年