豊島逸夫の手帖

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日銀に信任票を投じる金投資家たち

2013年1月23日

「中央銀行は金価格を通信簿として見ている」
日経ゴールドコンファレンスが開催されたおり、会議後のカクテル・パーティーで壇上に立った日銀高官が述べた言葉だ。
国民が代替通貨である金を買うという現象は中央銀行の金融節度に対する不信任投票と理解できる。金高騰は中央銀行の通信簿の成績が悪いということなのだ。
足元では、円建て金価格が32年ぶりの高値をつけている。
ということは、日本人投資家は日銀に不信任投票を叩きつけているのだろうか。

まず、今回の円建て金価格高騰現象は「安倍金高」のようなものだ。政治主導の円安の結果に過ぎない。国際金価格は1700ドルの大台を割り込み上値が重い中で、円安スピードが加速する過程で生じた。

問題は、その国内金高騰に対する投資家の反応である。
そこで、筆者は先週から店頭の現場での売買動向を注視してきた。昨年の金高騰時には長期デフレの無力感から金は売り現金に換える人たちが店頭で6時間の待ち行列を作り話題になった。しかし、今年は市場のムードがデフレ・マインドからアベノミクスによるインフレ期待へ転換しつつある。
金はインフレ・ヘッジで買われるゆえ、今回は高値でもかなり金買いが出るのではないか、と思われたのだが、実態は依然、圧倒的に買い取り(投資家から見れば売り戻し)が多い。
投資家は未だデフレ・マインドから脱却できず「流動性選好」に走るともいえるし、金高値警戒感も強いとも考えられる。
しかし、政府と日銀がインフレ政策でデフレ脱却を目指す時に、代替通貨たる金を売り、自国通貨=円を選好する行動は、「通貨の番人」への信認投票とも理解できよう。

筆者は19日東証ホールで開催されたゴールド・セミナーで講演した。土曜午後の閑散とした兜町のど真ん中のその一角だけは満席の200人の参加者たちが発するムンムンした熱気に包まれていた。
テレビ取材カメラなどを気にする様子もなく、活発な質疑応答セッションとなった。そこで印象的だったことは、金高騰でポートフォリオの金へのアロケーション(投資配分)が30-40%を超えてしまい、リバランスで金を売り日本株を買いたいという金投資家のコメント。
これまでなら、高値で保有金を売って現金で保有する、というマネー・シフトが主流だった。流れに明らかな変調が見られる。
政府の掲げる「成長戦略」に半信半疑ながらも、ここは賛同票を投じ、新たな流れに乗ってゆきたい、との思いが強く感じられる。
投資最前線に身を置くと、マネーの流れが金から株へ動きつつあることを実感するのだ。
但し、全ての金を売り払うのではなく、資産の10%程度は売らずに、アベノミクスの副作用=悪いインフレに備え、とっておく。
株か金かの二者択一ではなく、株と金でリスク分散を図る動きなのだ。
2013年は株で攻め、金で守る。
政府と日銀のアコード(合意文書)には、希望的観測といわれようが、とりあえず信任票を投じたい。
しかし、副作用としての悪性インフレに対する自己防衛措置も講じておく。
日本経済のゴールディロックス(熱すぎもせず、冷たすぎずの適温経済)は、徐々に物価上昇が進行するスローフレーションなのだ。

2013年