2013年10月17日
米国債務引き上げ交渉の最終幕は半沢直樹の最終回を想起させる。
注目度はピークに達するが、幕引きは、グランド・フィナーレとは言い難い。早晩、続編のシナリオが透けて見える。
そもそも、米国経済の赤字体質が懸念されて久しい。しかし、「債務上限法」が問題視される事態になったのは、筆者の40年近くのキャリアの中でも、この2年ほどのことだ。
特に今年は、明らかに、米国内政争のツールとして利用されている。
米国外から見れば「いい加減にしてくれ」といいたくなるほどの、ミエミエの瀬戸際政策(brinkmanship)である。
「ドル不安」という言葉も既に定着した感があるが、今回の大統領と議会のドタバタ劇は、その不安感を増幅させた。
とはいえ、外為市場は通貨価値の相対比較の世界だ。欧州債務不安、黒田日銀の異次元緩和が同時進行する中で、ユーロ安、円安の結果としてドル高トレンドが顕在化してきた。しかし、その間、ドル不安が解消されたわけではなかった。米ドルの長期保有はためらわれるが、マネーを「米ドル」にパーキングさせている感覚で投資家はドルを保有してきた。結局、ドル不安と、ドル安は異なるのだ。
米国債にしても、米国の債務返済能力については、長く議論されてきた。最悪、デフォルトの可能性も指摘されてきた。それでも、投資家は米国債を保有し続けてきた。本欄でも繰り返し述べてきたが、「流動性への逃避」現象なのだ。
今回、債務上限問題が市場のメイン・テーマになっても、米10年債の利回りは2.6%-2.7%程度の水準で、著変はなかった。
その米国財政問題が、想定内のシナリオに落ち着きつつある今、市場には、「当面」の条件つきながらデフォルト回避の安心感が流れる。
しかし、長期的に見れば、米国債を大量保有している中国・日本・中東をはじめ、世界の投資家の感じる「ドル不安」は、更に増幅されることになった。米国人も、基軸通貨の地位に甘んじてきた自国通貨の価値に対して元来無頓着であったが、さすがに今回は、「外の目」を気にし始めている。「米国債は今後も継続保有されるのだろうか」「米国経済を不安視する国際的風潮が強まるのではないか」「マネーの米国離れ懸念」などの論調がウォール・ストリートのみならずメイン・ストリート即ち一般国民の間でも明らかに増えている。
そこで相対的に浮上してきたのが、日本株である。
「ジャパン」というセクターがウォール街でも今更のように再認識されている。
「漁夫の利」とでもいおうか。
アベノミクスのシナリオが描きやすいので、アナリストの間でもリスク分散の観点から資産アロケーションの一選択肢として「定番メニュー」として定着しつつある。「ジャパン・パッシング」(日本素通り)の頃とは様変わりである。勿論、ポジティブ・シナリオとネガティブ・シナリオの両論併記だが、米国経済のネガティブ面と日本株のポジティブ面が強まっていることはたしかだ。外為市場同様、これも相対評価である。
ちなみに、その他の選択肢、つまり日本株のライバルとしては、一部に見直し機運がみられ割安感も指摘される欧州株と新興国株が挙げられる。
なお、市場のテーマは、米国財政政策から再びFOMC、イエレン新体制のFRBなど金融政策にシフトしつつある。
debt ceiling(財政上限)からtaper(量的緩和縮小)への回帰である。
なお、金価格は、結局、このドタバタで価格水準を1270-80ドルまで切り下げた。2011年に米国債格下げで1900ドル突破の史上最高値とつけたときと様変わりである。やはり、基本的な米国金融緩和縮小、更に引き締めへの転換が底流として効いている。
長期的には、1200ドル台が底値圏、短期的には1100ドル台も、との見方に変わりはない。
(9月、ニューヨーク証券取引所訪問、入口にて)