2013年11月18日
ドル円相場がチャート上の「三角持合い」から上放れた。蓄積された市場エネルギーが一挙に噴出した。リスクオンの円安だ、と後講釈で語るのは易しい。
しかし、その瞬間を市場内で捉えることは易しくない。
筆者が、「来たな」と体感したのは、11月12日の昼前であった。
外為市場の値動きに、プロの言い回しを使えばstrange vibrations(おかしな市場の振動)つまり異変を感じた。見慣れないプレーヤーが混じっている。
モニター画面では円安が進行して、チャート上は三角持合いから乖離しつつあるが、短期的な「相場の騙し」の例も多い。そこで、まず知り合いのシンガポール在住の某「著名投資家」にメールを入れた。更に、欧米市場の「長い付き合い」たちのネットワークを駆使して、いくつかの確証を得てから、24時間速報体制のある日経電子版には「4つの驚き、ヘッジファンドが円売り加速」と書いた。その電子版記事には14:06、そして17:54更新というタイムスタンプが残っている。ヘッジファンド円売り攻勢が第一波と第二波と加速したからだ。アジア時間帯で、円は対ドルで99円台半ばまで急落。これは、三連休明けの米国勢の仕掛けであった。そして、欧州時間帯が始まる直前に99円台後半に「本格突入」と原稿を修正して更新した。これは、欧州系ヘッジファンドの仕掛けであった。プロの間ではアーリー・バード「早起き鳥」と呼ばれる連中である。
11月はヘッジファンドの決算期と言われ、「ポジションの巻き戻し」が生じやすい市場環境でもある。
しかし、それ以上に、新たな仕掛けを感じたので、「新規の円売りポジションも上昇傾向」と書いた。
unwind(巻き戻し)だけでは、一巡すれば、数日で終わってしまう。
さて、問題は、ヘッジファンドの今後の動きである。
結論から言うと、クリスマス前までの「急ぎ働き」と思われる。
年末の仕掛けという時期的な制約も勿論ある。
そして、なんといっても12月17-18日にはFOMCが開催される。
そもそも、今回の円安の元をたどれば、米雇用統計改善というポジティブ・サプライズで「早期緩和縮小」説が勢いを得たことに始まる。
しかし、その後の、イエレン議会発言が、「緩和継続」を期待する市場に「満額回答」を与えたので、グローバルなメイン・ストリーム(主流)としては、ドル安に傾いている。「リスクオンの円安」は、日本発の解釈である。欧米ではイエレン緩和長期化予測がドル安を誘いやすい市場環境なのだ。
まだまだ当面は「量的緩和」やる気満々のイエレン氏の発言を聞くと、「リスクオン」或いは「日本株高」という要因で円が売られる状況が、日本限定のmisprice(価格の歪み)現象に映る。
市場がヘッジファンドの円売り攻勢に乗せられている、とも感じる。
本欄ではドル円が96円台で推移していた10月8日に「円安回帰へ潮目変化の兆し」と書いた。その後、円高局面もあったが、基本的に円安スタンスを維持してきた。
しかし、筆者が想定していたより早いタイミングで100円を突破した時点で、短期的には、一区切りと感じている。ここからの更なる円安はオーバーシュートとしてオフサイドと判定したい。(但し、長期円安スタンスは不変である。)
今後3か月に限定すれば、ドル・ユーロ・円の三極同時緩和が進行する中での「緩和競争」となりそうだ。即ち、緩和度が強い通貨が売られるという相対評価の世界だ。
黒田日銀がイエレンFRBを凌駕する追加緩和に踏み切らなければ、ヘッジファンドが「倍返し円買い」に走る局面も想定される。
国内円建て金価格も為替の影響を受ける。
欧米でドル安によるドル建て金高に振れ、同じタイミングで円安になる、つまり今のような状況では円建て金価格が国際的には割高になる。短期的な話だが、こういう局面は一過性なので、売りのタイミングだ。
ドル建て金価格は1300ドルの壁が重い。
やはり、貴金属セクターでは、プラチナに買いエネルギーが集まりやすい市場環境だ。