豊島逸夫の手帖

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相場コメントの読み方

2013年8月6日

メディアで色々私のコメントが引用されますが、概ね10-30分くらい取材で喋ったことが1行から3行程度活字になる場合が殆どです。テレビのニュース番組でも、カメラの前で30-60分近く喋ったけれど、本番で放映されるのは10秒から長くて30秒程度でしょうか。(スタジオ出演の場合は別ですが。)
ですから、断片的にしか伝わらず、編集の仕方ひとつで私の意図とは違った意味に捉えれられることもしばしばです。

たとえば、金については、私は短期弱気、長期強気を一貫して唱えていますが、報道されるときに、短期と長期と分けて引用されることは殆どありませんから、弱気のコメントが流れると「あれ、強気じゃなかったんですか」とか、強気のコメントが流れると「弱気かと思ってました」とか、いろいろ解釈されます。
長期的には日本株は上がり、円は安くなると思っていますが、短期的には、そのときどきのマクロ経済情勢の流れで見方を変えます。
ですから、個人的な資産運用でも、日本株もドルも金もプラチナも買っていますが、いずれも10年後を考えての投資なので、短期的売買はしません。その理由は、プロでも短期的相場動向など当たることもあれば外れることもあることを身を持って感じているからです。
明日、バーナンキが何を言うか、など事前に分かるはずもありませんから。
ブログで日々の値動きなどを細かく書かないのも、そもそも、そんな短期の動きを追っていないし、興味もないからです。雇用統計など重要な指標などは勿論別扱いですけどね。

よくセミナーで話すことですが、スイス銀行のトレーダー時代に3000回は相場を張りましたが、生涯星取り表は1600勝1400敗程度でした。8勝7敗で勝ち越しを12年続けることの難しさを痛感したものです。7勝8敗が続くと、クビになる世界でした。相場で2連敗くらいアッと言う間ですが、そうなると、3連勝しないと勝ち越せません。だから、8勝7敗を続けることは至難の業なのですよ。
勿論、1勝14敗でも一回大勝ちすれば、取り戻せるというケースもありますが、平均的には、ギリギリの勝ち越しでOKなのです。
こういう実際の売買経験のない人は、アタマの中だけで考えて、現場の空気が読めていないことが多いように思えます。要は、アタマでっかちで、結局、自分では決断できないタイプですね。

特に、リーマンショック以降、銀行内でもリスク管理が厳しくなったので、トレーダーがリスクをとることも厳しく制約されるようになりました。ですから、若手のトレーダーには、リスク耐性が弱いサラリーマン・ディーラーが多く見受けられるのです。
本来は、リスクをみずからとって売買する人がディーラーで、売買注文を仲介あるいは受けて実行するだけの人はブローカーとして区分されていました。でも、今や、殆どがブローカー化しています。
結果的に、市場参加者のリスク回避志向が強まり、椅子取りゲームみたいな相場になりがちなのです。価格の変動性(ボラティリティー)もリスクをとる人がいないから、高くなるのです。

最近は電子化されたプログラム売買が高頻度取引と言われて、相場を動かしますが、あれでも、結局プログラムを作り、採用するのは人間なのです。当たる場合もあれば、外れる場合もあります。
でも、相対的にリスクを取る人が減っているので、一部のリスクをとる人が大量の売買で相場を動かせるともいえるでしょう。
但し、投機的な売買は必ず反対売買でスクエア(チャラ)になりますから、その影響は短期的という宿命もあります。
今後、ドッドフランク法などで、さまざまな規制が市場取引に課せられてゆくでしょうが、どの程度の規制が適正なのか、実に難しい問題です。締め過ぎれば、市場の流動性が減るし、緩めすぎれば、投機マネーが相場の異常な乱高下を引き起こしがちですからね。

2013年