豊島逸夫の手帖

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再び円100円、市場環境激変で持続的円安へ

2013年7月3日

6月5日以来、約一ヶ月ぶりのドル円100円回復。
今回の第二波円安トレンドには、持続性を感じる。
まず、テクニカル面からは、「健全な調整」を経たことで、より堅固になった。もし一本調子の円安が続いていたら、バブル的様相になり、逆V字型の相場形成になったかもしれない。

そして、ドル円相場を取り巻くマクロ経済環境が激変している。

1. 米国の量的緩和縮小がより現実的シナリオとなり、ドル高要因が強まった。バーナンキFRB議長が、具体的スケジュールにまで言及。バーナンキ・ショックの影響を懸念した地区連銀総裁らが「修正発言」を繰り返し、「消火活動」を展開したが、中長期的流れは、緩和逓減傾向が明らか。米雇用統計の影響にしても、実施時期が延びるか早まるかという時間軸の問題である。
2. 新興国経済が不安定期に入り、通貨安競争の負の面が顕在化した。自国製品の国際競争力強化には資するが、自国通貨安は資本流出を加速するからだ。円安を「近隣窮乏化政策」として批判することには慎重にならざるをえず、自国通貨高を容認せざるを得ない「通貨政策の綱渡り」を強いられる。100円を超す円安は「オフサイド」と認定されやすい、と本欄では書いてきたが、今後は微妙な判定となりそうだ。
3. 円安要因としては、アベノミクスの成長戦略に対する失望感が「雇用なき異次元緩和」の懸念を高めたこと。「骨太の方針」も具体性を疑問視する見方が多く、「財政赤字問題」を危惧する外国人投資家の存在も無視できない。これらは「悪い円売り」を連想させる。
4. 日本の機関投資家も、国債利回りが徐々に落ち着いてきたことで運用面での「国債回帰」を強めている。円金利急騰のリスクは当面、鎮静化の様相である。一方、米国10年債の利回りは、米国マクロ経済指標の好転を映し、2.5%前後まで上昇中だ。結果的に日米金利差は拡大。これも円安要因だ。

但し、円高要因も残る。中国の金融不安は、中国人民銀行の「火消し」で当面小康状態だが、シャドーバンキングの構造的問題は残る。エジプト情勢も混迷の度を深めており、短期マネーがリスク回避で円に逃避する円高局面も視野に入る。
更に、経常収支の項目で、所得収支(海外投資からの収益など)は、4月に過去最大の2兆1160億円を記録している。貿易収支の赤字面ばかりが強調されるが、長年の円高を支えた構造の一部は変わらない。

以上、円高、円安の要因を吟味すると、総じて、円安傾向の相対的優位性を感じる。100円は「通過点」であり、短期的乱高下を繰り返しつつ、徐々にレンジが円安方向にシフトする展開となりそうだ。

2013年