2013年3月18日
18日早朝から円相場はいきなり94円台前半で値がついた。95先週末の95円台前半から、ストンと落ちて始まっている。
月曜朝の特に取引が薄い時間帯を狙った典型的な仕掛けで、GLOBEXでも時折見られる現象だ。
さて、その背景だが、キッカケはキプロス発。
15日のユーロ圏財務相会合で、債務危機に陥ったキプロスに最大100億ユーロ(約1兆2500億円)の金融支援を実施することで大筋合意したのだが、その条件が問題。同国の銀行の預金者に対して最大9.9%の課徴金を徴収するという異例の措置が実施されるのだ。ギリシャ支援では国債保有者に債務負担を強いたが、預金者に直接負担を求める例は、これが初めて。キプロスは小国とはいえ、欧州債務危機で今後、前例となるのでは、との警戒感からユーロ売りが噴出。その反動で円買いも誘発された。
更に、15日ニューヨーク市場引け後にCFTC(米国商品先物取引委員会)が発表した、シカゴ・マーカンタイル取引所の通貨先物市場における投機筋の円売り越し幅(12日時点)が、前週比2万412万増の9万3763枚に膨れ上がったことで、円売りの過熱感が一段と高まった。(2012年12月11日以来の高水準である。)
そして、今週は、19,20日にFOMCを控える。
最近のFOMCでは、回を追うごとにバーナンキFRB議長の金融緩和姿勢に慎重論、即ち、量的緩和早期終了論が台頭し、外為市場ではドル買いを誘発してきた。
昨年までは、FOMC参加メンバーの中で緩和慎重論(通称タカ派)が"a few"(2-3名)と表現されてきたが、昨年12月のFOMC議事録では、それが"several "(5-6名)と変わり、市場にはサプライズ要因となった。更に、米国経済指標の好転とともに、最新のFOMC議事録では、"many"(多くの)とトーンが上がって、俄かにQE早期終了論に切迫感の兆しが見え始めていた。外為市場でのドル買いも加速した。
しかし、冷静に見れば、現在のFOMCで投票権を持つ参加メンバーは大半がハト派(量的緩和継続論)である。その旗頭のバーナンキ氏も2014年1月までの任期は全うすると見られる。
となると、2013年中に基本的な緩和スタンスが「出口戦略」に転換する可能性は極めて薄い。ニューヨーク市場でもアナリスト間に、FRBの政策変更は、あっても2014年と見る向きが多い。
とにかく、"Don't fight the FED."(FRBには逆らうな)が、今の市場ではディーラー間の合言葉。
今週のFOMCでも、緩和スタンスには変更なし、ということが確認される可能性が強い中、円売り過熱感を警戒した投機筋が、FOMC前の手仕舞いの円買いを入れてきたわけだ。
アベノミクス発の円売り材料はほぼ出尽くし、円安第二ラウンドは、ニューヨーク発のドル買いに依存する面が強い。
その欧米通貨市場関係者の間では、そろそろ、アベノミクスとのハネムーンは終わり、成長戦略を吟味する時期との認識も強まっている。
しかし、円安トレンドの構造要因、即ち、日本の貿易収支赤字化傾向は変わらない。米国経済指標もおおむね好転傾向だ。少なくとも、欧州(ユーロ)、日本(円)に比し、一足先に回復の道を歩み出したことは間違いあるまい。
構造要因による円売りドル買いという「根雪」の上に、投機筋の円売りのフワフワした「新雪」がドカ雪の如く積もり上がった「二層構造」の円安なので、今回は、そのドカ雪の表層雪崩と見るべきであろう。
相場的には「健全な調整局面」といえよう。
金価格に関しては、今回のキプロスは預金者負担ということで、預金をおろして金を買うという連想が働くが、欧州債務危機でリスクオフとなり金には売り材料と化すこともあるので、うっかり乗れない。