2013年8月30日
米国そして同盟国軍のシリア軍事介入は、仮にあっても9月にずれこみそうな雲行き。気になる原油価格は、軍事介入のケースでブレント120ドルを超える上昇が予想される。更に、アサド政権の反撃が中東地域を巻き込むシナリオにエスカレートすると、130ドル以上への急騰も絵空事とはいえない。ソシエテ・ジェネラルが、150ドルまでの上昇予測を発表して注目されたが、さすがにこれは、市場内では極論扱いされている。
仮に120-130ドルのレンジまで原油価格が切り上がったとして、日本への影響を考えるに、為替要因も重要である。
シリア限定空爆ともなれば、「安全通貨」とされる円に逃避マネーが流入して円高になるシナリオが予想されるので、仮に95円以下の円高水準になれば、ドル建て原油価格の上昇はかなり相殺されるだろう。
しかし、欧米外為市場の9月の最大の要因は、17-18日に開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)で量的緩和縮小が決定されるか否かである。その鍵を握るのが6日に発表される米国雇用統計。
8月29日に発表された米国失業保険新規申請数が前週から6000人減少し、過去4週間の移動平均も下落傾向が鮮明なので、市場には雇用統計に関し楽観論が強まっている。4-6月期の米国GDP改定値も前年比年率で速報値の1.7%増から2.5%増に上方修正された。その結果、シリア情勢悪化による「有事の円買い」より「ドル高」の影響がまさると、国内原油価格は、海外原油高と100円を超える円安のダブル効果で急騰するケースもあろう。国内のガソリン価格が現状から更に2割程度上がって1リットル180円前後の水準になる可能性もリスク・シナリオとして考慮しておく必要はありそうだ。
国際原油価格は、米国のシェール革命や、経済が減速する新興国の原油需要減のなどの要因で、それほど上がらないはずだったが、中東情勢不安で潮目が変わった。
なお、シリアは内戦状態前でも日量40万バレル程度の生産量で、原油生産国としての存在感は薄く、現状では、実質的に原油輸入国となっている。
しかし、イラクの油田地帯に近いことがリスクなのだ。シリアの(イスラム)スンニ派反政府グループは、シリアとイラクの国境をほぼ自由に出入りしているという。
イラクの原油生産量は日量300万バレルに達するので、市場に影響を与える規模といえる。
そして、シリアのアサド政権の実質的後ろ盾役となっているイランの存在もリスクだ。
経済制裁で原油輸出はストップ状態であるが、シリア国内の過激派ヒズボラを煽って緊張を高めるかもしれない。イランの核保有問題についての交渉に、シリア軍事介入停止などの条件をからませ、難癖つけてくる可能性もある。また、シリアの反政府派を支持しているサウジアラビアに対して、サウジ国内の(イスラム)シーア派をたきつけることもありうる。
更に、エジプト緊張激化に加え、大手の原油生産国リビアは労働者ストライキや政情不安、ナイジェリアも略奪行為などの要因で生産量が減少、或いは、減少の恐れが顕在化していることが、シリア情勢悪化前から原油価格を押し上げていた。
但し、市場内部要因を見ると、これらの事象を既におりこむカタチで、ファンド筋の思惑買いは史上最高の水準まで来ている。
今後は、年金基金などが、地政学的リスク・ヘッジでコモディティー・セクターへの運用配分を増やす可能性は残っているが、長期マネーゆえ、足元で価格上昇要因とはなりにくい。
また、米国などが原油の戦略的備蓄を放出するシナリオもある。サウジアラビアも生産余力を残す。
従って、130ドルを超えるような水準が長続きする可能性は低いだろう。100ドル以上の水準で高止まることになりそうだ。
なお、有事の金買いは一服。1410ドル前後で推移。
プラチナは、地政学的要因があると売られるので1510ドル前後。
金プラチナ値差が200ドルに接近かと思われたが、
100ドル程度にまで縮まってきた。