豊島逸夫の手帖

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キプロスが残したココロの傷

2013年3月26日

キプロス問題は、「一応」EU側とキプロス側で基本的合意と伝えられ、マーケットには安堵感が流れた。ところが、NY時間の午前11時頃に異変が発生。オランダ政府高官が「今回の最終的に預金者にも債務返済の負担を負ってもらう方式は、今後の欧州債務問題処理のテンプレートになる」と"テンプレート"という言葉を使ったことで俄かに市場には不安感が走った。
NY株も、その直前までは、S&P500株価指数が過去最高水準まであと僅か1ポイントに迫っていたのが、アッという間に急落。外為市場ではユーロが1.30台から1.28台まで急落。
リスクオフで避難通貨としての円は93円60銭まで一時急騰。

なぜ?テンプレート?

要は、テンプレートになるということは、前例として今後も同じ形式が使われる、ということなので、仮に、イタリア・スペインで銀行不安が生じたときに、預金者は「キプロス方式が適用され、私の預金が国家権力の手で10%減らされるのか。」と考えてしまう可能性が強まるのだ。
キプロス自体は小国でも、前例は前例。EU圏内にその前例は瞬時に拡散することになる。だから、小国での出来事と一蹴できなくなったわけだ。欧州株式市場ではイタリア中心に銀行株が売られ、NY株式市場でも米銀株まで売られ始めた。

金価格はといえば、昨日の早い時点では、キプロス基本合意で「安全性を求めるマネー」が流出して1600ドルを再び割り込んだが、オランダ高官発言で1600ドルを回復。
但し、その後、オランダ側からテンプレートという言葉が誤解されているとの修正発言もあり、事態は不透明だ。
しかし、ひとたび、高額預金者とはいえ、預金者のおカネが債務返済に使われると、それは個人投資家にはショックだし、ココロの傷は消えない。疑心暗鬼になる。私の預金は大丈夫??
そこで、銀行預金をおろし、金を買うというマネーシフトが今後欧州圏内ではジワリ進行するのではないかと思う。
ヘッジファンドのような派手は動きにはならないから外電の市況コメントに出るような話ではないが、通年で見ると、スイス・ドイツあたりの個人金購入量が思いのほか増えていた、というような展開は充分に考えられる。

なお、気になるドル円は、結局94円台をすぐに回復。やはり円安圧力が強いことを改めて実感。
今朝の日経朝刊に、金国際価格(ドル建て)の価格予測が下がっていることが報じられているが、円建てはそう簡単に下がらないね。

2013年