2013年8月2日
オバマ大統領に「バーナンキFRB議長は、その職を充分に長く務めた」とテレビ番組で公然と「肩たたき宣言」され(6月19日付け、日経本コラム既報)、7月31日には、議会の民主党議員の集まりで、オバマ大統領が(FRB議長の有力な後任候補とされる)サマーズ氏をこれまた公然と擁護する発言をしたことが報道され、現職FRB議長も複雑な心境であろう。このままで職を去っては、経済学教科書に「米ドルを刷りまくりばら撒いた人物」として名を残すことになる。「リーマン・ショックという経済有事に対する非伝統的金融政策も、平時に戻れば、解除する」ことを明言してきただけに、「ドルばらまきを打ち止め、じゃぶじゃぶのマネーを回収して、ゼロ金利を解除する出口戦略の道筋を明示する」という「けじめ」をきっちりつけたうえで退職したいところであろう。
メディアでは連日、後任候補が取り沙汰され、スーパー・ハト派副議長としてバーナンキ氏を支えてきたイエレン氏が本命視されていたが、サマーズ元財務長官がオバマ大統領の「お気に入り」として急浮上している。サマーズ氏は財政政策を重視。金融政策についてはタカ派的イメージがつきまとう。オバマ大統領がハト派のバーナンキ氏を切り、タカ派のサマーズ氏を起用と市場に解釈されるようでは、中央銀行の独立性に関しても余計な詮索をされかねない。
このような状況下では、バーナンキ現FRB議長としては、9月のFOMCで「量的緩和縮小」を明示することで、きっちり「けじめ」をつけたいところであろう。
建前として「緩和縮小の最終決断はマクロ経済データ次第」と繰り返し強調してきたが、FOMC声明文発表の翌日に発表された米国製造業ISM指数と新規失業保険申請者数は、いずれも極めて良好な数字であった。
ここで、注目すべきは、マクロ経済指標好転を市場が素直に評価してNY株価も最高値を更新したことだ。これまでは、市場がFRBに対して疑心暗鬼状態の中で、マクロ経済指標の良い数字が量的緩和縮小を誘発するのでは、という懸念から、株も売られる局面が頻発していた。
しかし、1日のNY株上昇を見るに、市場がやっと「量的緩和縮小」の呪縛から解放された感がある。
「緩和縮小」は「引き締めへの転換」にあらず、とのFRBのメッセージが、市場に浸透してきた証しと見ることができよう。
「毎月総額850億ドルの債券買い取りプログラムが、600億ドル程度に減額されても、歴史的に見れば大規模な量的緩和が継続されている」との認識が、市場の底流として定着してきたようだ。
今回のFOMC声明文で余計なことを言わず、これまでの基本路線からぶれず、一貫性を印象づけたことで、FRBと市場とのコミュニケーションが、ようやくかみ合ってきた感がある。
今晩発表される雇用統計で、仮に非農業部門新規雇用者数が20万人を超える良い数字が出たとして、市場に「緩和縮小開始9月説」が強まっても、「緩和縮小、恐るるに足らず」との認識が、相場を支える展開になると見る。