2013年10月11日
8日、日経コラム「潮目が変化、倍返しの円安回帰へ」にて「米デフォルト懸念も今がピークだ」と書いたときの、VIX(恐怖指数)は19台から21台突破まで急騰していた。ドル円も円高進行で96円台後半の水準にあった。
しかし、VIXは9日に22.72でピークを打った後、10日は前日比15.92%下げ、16.48まで急落して引けた。
米民主党と共和党の歩み寄りで6週間の期限付き債務上限引き上げという「水入り」の可能性が高まり、投資家の恐怖心理が後退したためだ。オバマ大統領が共和党案を拒否との報道も流れ、不透明感は残るが、総じて、市場は落ち着きを取り戻しつつある。
マネーは「逃避通貨」円から流出し、米ドルへ6週間の「一時帰宅」を始めた。
8日の日経コラムでは「NYのファンド筋からも、そろそろ円買い逃避ポジションは居心地が悪いuncomfortableとの声が聞こえ始めた」と書いた。やや落ち着きを取り戻した新興国通貨に「割安感」を感じ、円買い、新興国通貨売りのポジションを巻き戻しているファンドもある。
実は、uncomfortable(気持ち悪い)というNYディーラーの呟きを、9月19日、日経コラム「米緩和縮小延期を示唆した市場の気持ち悪さ」でも紹介した。
FOMC前日からNYに居た筆者が、その単語を聞いて、9月18日のNY発、日経コラムで「FOMC初日、緩和縮小延期の可能性浮上」と題した予測記事を書いたときのことだ。結果は、その予測どおり「大方の予想に反し」緩和縮小は延期された。
NYの現地で複数の旧知米国人ディーラーがつぶやいた「気持ち悪い」の一言がキッカケで、「緩和縮小予測」に傾きすぎていた市場に違和感を感じ、「大方の予想に反する」可能性を指摘したわけだ。
このような一言は、メディアの「コメント」では流れにくい。現場の空気を吸って感じる「現場感覚」であり、「きれいな説明」にはならないからだ。
しかし、説明が理路整然として上手なコメンテーターが、必ずしも相場予測にたけているわけではない。
筆者の勤務したスイス銀行チューリッヒ本店外為貴金属部では、「アナリストは二本の手をもつが、ディーラーは一本の手しか持たない」とよく聞かされた。アナリストはon one hand(いっぽうで)こうなるが、on the other hand(他方では)ああなる、と説明できる。それで、上がるのか下がるのかと聞かれれば、シナリオAとBの確率はそれぞれxx%と答えればよいわけだ。しかし、ディーラーは売りか買いか、一本の手しか持たぬ。市場情報が氾濫する中で、決断の決め手は、さほど理論的とはいえない場合が多い。長年の経験から得た「勘」と言ってしまえば、身もふたもないが、投資決断には説明できない非合理性が常につきまとうものだ。更に、現地市場での個人的ネットワークの広さも重要な「無形資産」だ。
さて、今後のドル円の展開だが、ファンドに円ショート選好の兆しが見える。黒田日銀がマネタリベースを名目GDPの37%にまで膨張させた日本と、同比率が19%の米国、13%のEU圏との差が、あらためて意識されている。「イエレン氏も超ハト派だが、黒田氏は超々ハト派だ」との認識が底流として感じられる。
さて、このような市場環境で、緊張感がやや後退し、ドル高に振れると、金は1280ドル台まで売られている。
一方、プラチナは1380ドル台まで上昇した。不透明感が和らぐと、産業用メタルのプラチナは需要増期待から買われる。
金プラチナ値差は100ドルまで再拡大。
昨日プラチナに割安感ありと書いたが、ニューヨークでも発想は同じだった。
金は下値模索が続く。