2013年7月25日
「オバマ大統領「バーナンキ議長肩たたき」発言の波紋」(6月19日付け日経本コラム)で、「バーナンキ後任人事が13年後半の大きな相場変動要因となろう」と書いたが、FOMCを控えた今週になり、ウオール街でホットな話題となってきた。
本命は依然として現FRB副議長のイエレン氏だが、ワシントン・ポスト紙やウオール・ストリート・ジャーナル紙などが「対抗馬サマーズ元財務長官が浮上」と報じたこともあり、俄かに、僅差のレースの如き様相を呈している。
背景としては、オバマ大統領の支持率が45%を切った水準まで低迷していることが挙げられる。そこで、株価やドル相場などに大きな影響を与える立場にあり、来年1月には任期終了を迎えるバーナンキFRB議長に対し、オバマ大統領は実質的「肩たたき」とも解釈できる発言をしたのだ。では、次期FRB議長任命者としての大統領の胸の内はどうか、ということで様々な憶測が流れるわけだ。
サマーズ説の根拠としては、
1) | オバマ大統領はサマーズ元財務長官の元同僚や友人に囲まれ、イエレン氏に比べれば、サマーズ氏に好感を抱いているのではないか、との観測。 |
2) | 経済危機が勃発した場合の危機管理においては、サマーズ氏に実績がある。 |
3) | マーケットでの知名度、信頼度においてもサマーズ氏が優るのではないか、との観測。 |
などが挙げられる。
いっぽう、ポール・クルーグマン・プリンストン大学教授はニューヨーク・タイムズ紙で「サマーズ氏浮上説には全く根拠がない」と一蹴。FRBのまとめ役として、副議長としての実績があるイエレン氏に対し、強面のイメージが強く問題発言もあったサマーズ氏に疑問符を呈している。
一般論としても、政策の継続性という観点からイエレン氏を推す声が多いことも事実だ。
ただ、問題は、その「継続性」の意味合いだ。
イエレン氏はバーナンキ氏の右腕として「スーパー・ハト派」として補佐役を務めてきた。しかし、次期FRB議長は「緩和から引き締めへの転換」というタカ派としてのきつい仕事をせねばならぬ。そこで、強い発言力とリーダーシップを発揮できるのは、サマーズ氏という判断も無視できないわけだ。
また、別の観点から見ると、イエレン氏となれば、「初の女性FRB議長誕生」という歴史的な人事ともなりうる。この点では、サマーズ氏は過去に女性関連失言問題でハーバード大学学長を辞任したという事実が見逃せない。05年に「女性が統計的に数学と科学に関しては劣る」とも解釈される発言をして、後に本人が謝罪しているのだ。
支持率低迷に悩むオバマ大統領にとっては、この点が重要な判断基準になる可能性も無視できまい。
市場の本音としては、イエレン氏「熱烈歓迎」と思われる。サマーズ氏には「タカ派」のイメージが払拭できず、ハト派のイエレン氏のほうが、緩和縮小・引き締めへの転換の時期を遅らせるシナリオが期待できるからだ。
FRB議長就任には上院の承認が必要ゆえ、オバマ大統領は8月か9月には人事を発表するとみられている。
9月のFOMCでの緩和縮小決定の有無に、このFRB議長後任人事も加わり、市場のボラティリティーも一段と上がりそうだ。