豊島逸夫の手帖

Page1390 バブルと言われる時に相場は崩れない

2013年4月9日

株も債券も円安も「バブル」と言われる間は、相場は崩れない。バブルと言い疲れたときに、一相場終わるものだ。

外為市場では、「円安バブル」と言われつつ、黒田日銀の「異次元緩和」発表後、ヘッジファンドの「円売りポジションの再構築」が始まった。
日銀金融政策決定会合前に円売りポジションを一旦手仕舞ったファンド筋が、「大胆」な政策内容を見て、再び円売りポジションを構築しているのだ。100円に接近する水準から、新たな円ショート(空売り)攻勢を仕掛けるのは、かなり勇気がいる。
そこで、ファンドの背中を押す言葉が「クロダ・プット」。これは「バーナンキ・プット」という言い回しを援用した表現だ。
米国景気が悪化すれば、バーナンキFRB議長が、量的緩和を強化して下支えてくれる。NY株を買いに向かうファンド筋にとっては、株価が下落してもバーナンキ氏が実質的にプット・オプションで下値をヘッジしてくれることが見込めるので、買い安心感が醸成されるのだ。(プット・オプションは一定価格で売る権利のことなので、価格下落に対するヘッジ手段として用いられる。)
事実、バーナンキ氏はFOMC後の記者会見や講演などで、しばしば「量的緩和が株価を押し上げることで生じる資産効果」に言及している。
同様に、黒田日銀も、日本の株価が下落すれば、国債購入量を増やすことで「結果的」に円安を促し、実質的に下値をサポートしてくれることが期待できるので、「クロダ・プット」となるわけだ。
二年間でマネタリーベース倍増を目標として掲げる「異次元緩和」政策は、クロダ・プットの心理的効果をも倍増させたと言えよう。
もし、クロダ・プットなかりせば、100円に接近した段階から、新たな円売りポジションを構築する決断は出来なかったかもしれない。

なお、日銀が大量の国債を買うことで、国内の債券市場から押し出された日本の機関投資家が外債購入に向かう可能性も更なる円安要因として指摘されるが、これは、近未来のこと。
現在進行形で100円突破を目指す円安トレンドを先導しているのは、やはり欧米のヘッジファンドだ。いまや、日本株と円売りは「スター・パフォーマー」(実績を残すスター級投資)として認識されている。

話は債券市場に移るが、欧米のファンド筋は「日本のサラリーマン機関投資家が本格的に外債買い出動したとき、自分たちは利益確定に動く」と言う。
これも本欄でしばしば言及してきた「噂で買ってニュースで売る」というプロの常とう手段ともいえる手口の一例となろう。
たしかに筆者の経験でも日本の機関投資家の勉強会に招かれ質疑応答でもっとも頻繁にでる質問が、「よそさんはどうなんでしょうか」。よそさんが外もの(外貨投資)のアロケーションを増やせば、うちもそれに続く、というサラリーマン心理が透ける質問だ。
債券市場の多くの担当者の本音は、JGBロング(買い持ち)が「気持ち悪い」が、「よそさんもやっている」から社内では正当化しやすい、ということ。自分の担当の任期中は「とりあえず」JGBで凌ぎ、次の担当者に先送りする、というプロセスを繰り返し、いつのまにか巨額の日本国債保有を蓄積してしまった。いまや、"too big to sell"(大きすぎて売るに売れない)。
しかし、国債利回りも限りなくゼロに近づくにつれ、どこかの時点で臨界点を迎えるは必定だ。5日午後の債券市場の波乱で、市場はその予告編を見せつけられた。
振り返ってみれば、「よそさんもおやりになってます」というまことに日本的な言い回しは、AIJ事件でも、顧客の機関投資家へのセールス殺し文句で使われたという。

年々、コンプライアンス強化により、サラリーマン機関投資家がリスク回避志向を強めているが、今や、リスクのない投資など無い。
「国債が安全資産」という時代は終わった。これからは、機関投資家の運用でもリターンよりリスク配分が重視され、社内で明確な投資の「出口戦略」が合意され明示されることが今まで以上に必要になろう。

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