豊島逸夫の手帖

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トリプルAは絶滅危惧種、米国債は蘇生するか

2013年6月11日

米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、10日に米国債の長期格付け見通しを「ネガティブ(弱ぶくみ)」から「安定的」に引き上げると発表したことは、ドル安の時代からドル高の時代への変遷を告げる象徴的出来事といえよう。

ドル安、円高の動きが台頭した矢先の発表で、アベノミクス相場には朗報である。

振り返ってみれば、2011年8月、同社が米国債をトリプルAからダブルAプラスに引き下げたときは、ドル安の時代を印象づけるイベントとされたものだ。トリプルAは絶滅危惧種指定のごときインパクトもあった。

しかし、その後、時は移り、米国財政問題にも改善の兆しが見え始めた。2013年5月14日には、ファニーメイ(米連邦住宅抵当金庫)が、1-3月の純利益を81億ドルと発表。住宅価格の上昇や返済延滞の減少により、四半期ベースでは過去最高益となった。その結果、2008年に米政府の管理下に入っていた同社は、財務省に594億ドル(約5兆8千億円)を返済を発表した。

ファニーメイ、そしてフレディ―マックといえば、米新規住宅ローンの9割程度を信用保証する巨大住宅公社で、住宅バブル崩壊により経営危機に陥り、サブプライム危機の「がん」とされたものだ。

更に、5月14日には、CBO(米議会予算局)が、2013年会計年度(2012年10月―13年9月)の財政赤字見通しを2月時点の予想8450億ドルから6420億ドルへ下方修正した。これは2008年以来の低水準である。同局は、ファニーメイ、フレディ―マックからの返済が今年は950億ドル増加する見通しを、その根拠の一つにあげた。

その間、歳出強制削減が実施され始めたが、米国経済は持ちこたえている。
勿論、議会のねじれ状態は解消されず、債務上限引き上げ議論も先送りが繰り返されている。ベビーブーマー世代の高齢化にともない、今後10年間の累積赤字見通しも6兆3400億ドルに達する。決して楽観視できる状況ではない。

しかし、少なくとも、欧州や日本の財政赤字への取り組みに比べれば、好転の兆しが見え始めた点で、先行しているといえよう。

日本ではアベノミクスの第四の矢として指摘され始めた段階だ。

このような財政環境では、通貨価値の相対評価の場である外為市場で、米ドルが買われがちな傾向になるのは当然の結果であろう。

但し、10日の米国債券市場では、米国債が売られ、10年債利回りが2.2%を超えている。米国債格付け上方修正が、米国経済好転=金融緩和の規模が縮小される、と解釈されているのだ。株式市場でも、米国経済に良い材料が、金融緩和逓減(taper)を連想させ、下げ材料とされがちな現象と共通点がある。目下の市場の関心は、緩和継続か逓減かとのポイントに集中しているようだ。

貴金属市場では金プラチナ値差が拡大中。金1380ドル台でじり安。プラチナは1510ドル台でじり高。

緩和縮小は景気好転を意味するので、景気敏感メタルのプラチナは、不況で買われる金より、上がりやすい。

2013年