豊島逸夫の手帖

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ソロス氏、円売りで930億円稼ぐ

2013年2月14日

今回の円安進行局面では投機筋の売買回転が効いている。即ち、まず円を空売りして下がったところで買戻し。そこで円高に振れたところで、すかさず再度、円を空売り。この繰り返しで円の水準がみるみる安くなっていったことを本欄でも繰り返し指摘してきた。
その実例が相次いで明るみに出始めた。
まず、ジョージ・ソロス氏が昨年11月半ばから円売りで10億ドル(約930億円)を稼いだとウオール・ストリート・ジャーナルが報じている。更に、同氏のファンドのポートフォリオの10%は日本株だという。
また、他の大手ヘッジファンドのパフォーマンスの例を、フィナンシャル・タイムズが挙げている。
まず、元ゴールドマン・サックスのパートナー アンドリュー・ロー氏率いるカクストン・アソシエツが過去3か月で約10%のリターン。チューダー・インベストメンツとムーア・キャピタルは約9%のリターンをそれぞれ記録した。
いずれも業界では著名なファンドで、共通点は、グローバル・マクロ系。即ち、マクロ経済の流れを読み通貨、債券、デリバティブの値動きに乗って儲けようというヘッジファンドだ。
今回は、アベノミクスの結果としての円安を読み、大胆に相場を張ってきた結果、短期にハイ・リターンをあげることができた。
ちなみに、グローバル・マクロ系ヘッジファンドの過去3年間の平均リターンは3.5%であったという。
更に先述の3つのファンドには、リーマンショック後のパフォーマンスが芳しくなく、苦境に立たされていた、という共通点もあった。
故に、アベノミクスが、窮したヘッジファンドの救いの神となったわけだ。
「グローバル・マクロ系ファンドの復活だ」との大手ヘッジファンドのコメントも紹介されている。

中長期的に見れば、これらの投機的円売買はゼロサム・ゲーム。空売りした円は、「必ず」買い戻される。
今の円安は、この投機筋による円売りポジションがどか雪の如く積もり、それを、貿易収支赤字拡大傾向に中で膨張する輸入業者の円売り・ドル買いという「実需の根雪」ポジションが支える、二重構造になっている。ふわふわの新雪は、市場内の僅かな異音で表層雪崩を起こす傾向があることも留意しておくべきだろう。一方、輸入業者のドル買いは、急速な円安に進行に乗り遅れ、後手後手に廻りがちだ。
その意味では、輸入業者が為替の機会損失を価格に転嫁することで、最終的には日本人消費者がヘッジファンドを儲けさせてやった結果になっている面も否定は出来まい。

2013年