豊島逸夫の手帖

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2013年ドル高時代への過渡期

2013年1月7日

円安傾向が止まらない。
4日の米国雇用統計は、非農業部門新規雇用者数15万5000人増、失業率7.8%。総じて、08年の金融危機以前より半分程度の低位の雇用水準で、鈍い回復傾向が続いている。
外為市場では、雇用者数増加の頭打ち傾向を嫌気して、発表直後からドルが売られた。ドル・インデックスは発表前の80.95から一気に80.60にまで急落しており、その後の反発も鈍い。
ドル円も88.30円から87.60円までストンと落ちた。しかし、すぐに88.10円まで戻しているのだ。
世界的にはドルが売られても、対円ではドルが買われ、円が売られる現象が依然根強い。
短期的には急ピッチの円安に対する反動への警戒感が強いものの、対円でドルが売られる押し目はすぐに買われる展開だ。
4日の引け後に発表されたIMM(シカゴ国際金融取引所)の投機筋ドル円取組は以下のとおり。

12月31日時点 12月24日時点
円買い持ち 30,432 26,757
円売り持ち 110,949 112,365
売り越し残高 80,517 85,608


昨年末時点では、一旦、円売りを若干減らし、円買いを増やしているが、年明けには88円台まで円安が再進行しているので、売り越し残高がまた増加していることは間違いない。
これは、短期値幅狙いの投機筋が円を売っては、下がったところで買戻し、円高に振れたところで再び新規の売りをかけるという、所謂「売買回転が効いている」状況を示唆する。
更に、ドル円90円、100円説が台頭する中で、これまで円に「避難」していた足の長いマネーも、円離れの動きを加速させている。
投機筋の円売りドル買いは「ドカ雪」のようなもので、「表層雪崩」を起こしやすいが、長期投資マネーの円離れは円買いの「根雪」が融け出している現象なので、その分、ドル円のレンジは円安方向へ動く。
現場の感覚としては、ドルでも金でも一方向への動きにモメンタム(勢い)がつくと、一気に想定外のレベルまで値が飛び、その後、時間をかけて調整するもの。今回の円急落も、このまま短期に90円以上まで進行した後、時間をかけて、落としどころを模索するのではないか。安倍政権のハネムーン期間が終わり、米国の債務上限問題が瀬戸際を迎え、更に参院選を控えるとなると、いずれ円反騰局面も避けられまい。短期的乱高下の紆余曲折を経て、85円前後の「落としどころ」に収れんしてゆくシナリオが考えられる。
金価格の例を見ても、一時は2000ドル突破確実視の急騰が続いたが、長期的には1500~1600ドル前後の「需給均衡点」に収れんしつつある。レンジの下値は中国など新興国の公的・民間部門の現物需要が「根雪」の如く支える構図だ。
ドル円も思惑・期待主導相場から「ドル円の需給均衡点」の模索局面に早晩シフトしてゆくことは必定である。

なお、中期的には米国発のドル買い要因が日本発の円売りとの共振現象を起こす可能性が注目される。特に、本欄4日付け「FRBの量的緩和出口戦略と円安の行方」に詳述した12月FOMC議事録のサプライズは市場の潮目を変えた。そこで注目視された「 several = 数人の理事が債券買い取りプログラムを、2013年末よりかなり早いタイミングで減速、あるいは停止することが適当と考えた」の一文。
現在のFOMCには7名の「タカ派」がいるので、severalとは、少なくともそのタカ派の中で5名程度がQE早期終了論を唱えた可能性が強い。
この点を詳しく吟味してみよう。
そもそもFOMCは12名のメンバーで構成されるが、タカ派は殆どが地域連銀の総裁メンバーである。地域連銀総裁メンバーはニューヨーク連銀を除き11名の中から4名が一年持ち回りで投票権を持つ仕組みだ。
詳しく説明すると、ニューヨーク以外の地域連銀は以下の四つのグループに分けられ、その中の1人が一年任期で投票権を持つ。それ以外のメンバーは、投票権は持たないが、「FOMCに出席し、議論に参加すること」が認められている。つまり、彼らに反対論あれば、議事録に残るわけだ。
そこで、四つのグループの地区連銀総裁メンバーのタカ派、ハト派の区別をまとめてみた。
<グループ1>
ボストン(ローゼングレン、タカ派)
フィラデルフィア(ブロッサー、タカ派)
リッチモンド(ラッカー、タカ派)
<グループ2>
クリーブランド(ピアナルト、タカ派)
シカゴ(エバンス、ハト派)
<グループ3>
アトランタ(ロックハート、ハト派)
セントルイス(ブラード、ハト派)
ダラス(フィッシャー、タカ派)
<グループ4>
ミネアポリス(コチャラタ、タカ派)
カンザスシティー(ジョージ、タカ派)
サンフランシスコ(ウィリアムズ、ハト派)

この各グループから、2012年はリッチモンド、クリーブランド、アトランタ、サンフランシスコの4名が投票権を持った。それが2013年には、ボストン、シカゴ、セントルイス、カンザスシティーの4名に変わる。
その結果、地区連銀グループからは2012年にタカ派2名、ハト派2名だったが、2013年にはタカ派1名、ハト派3名になるのだ。
更に、FOMCメンバーのバーナンキFRB議長以下、FRB理事とニューヨーク連銀ダッドリー総裁は8名のうち7名がバーナンキ支持派と見られるので、2013年中は12名のメンバーの中でタカ派は2名ということになる。従って、投票権を持たない地区連銀総裁たちが5名ほど早期終了説を唱えても、FOMCとしての多数決によりQE継続が決まることはほぼ間違いない。問題は、バーナンキ議長の任期が切れる2014年以降であろう。
とはいえ、タカ派7名の発言がFOMC議事録には残るので、その度に、市場は神経質に反応する。
金市場などは、QE継続をしっかり織り込んで、一時は1800ドル近くまで急反発していたが、3日のFOMC議事録発表を受けた4日の欧米市場では1620ドル台まで急落する場面もあった。もし、雇用統計が良い数字であったなら、そのまま1600ドルを割り込んだかもしれないが、鈍い雇用回復ということで、QE維持説にサポートされ、かろうじて下げ止まり反発して引けた。
今後も「QE終了を今年年央から秋口に早めるべし」との発言がタカ派から繰り返されるようだと、ドルもそのたびに全面高に振れよう。FOMCは多数決と分かっていても、市場で大きなポジションをとる参加者は、ドル売りに慎重にならざるを得ない。仮にドルを売っても、買い手仕舞いを急ぐだろう。それがマーケット最前線のセンチメントというもの。少なくとも、これまでのような一方的ドル安の潮目は変わった。支配的であったドル売りモードいったんリセットされている。

さて、週末はガーラ湯沢でスキー♪ピーカンで最高でした。
それから、1月19日の東証セミナーは、マーケットが激動しているので、日本株、円安、そして金について話すことにしました。↓
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http://www.tse.or.jp/learning/seminar/etf/jtb-0119.html (現在公開されていません)

2013年