2013年8月21日
「通貨安競争」を展開してきた新興国が、「通貨高競争」への転換を強いられている。新興国経済の目覚ましい成長は、自国通貨安を維持する為替政策に支えられた輸出増と、米国量的緩和マネー流入に刺激された国内消費増という双発エンジンにより推進されてきた。
しかし、米国量的緩和縮小への動きが、新興国からのマネー流出を誘発し、自国通貨が売られ過ぎ、「適正水準」を超す下げ幅で急落している。「通貨安」が「通貨危機」の様相を呈し、新興国の中銀は自国通貨買い、資本流出規制などの「通貨防衛」を強いられるに至った。
自国の通貨価値を守るためには、輸出=経済成長を犠牲にせねばならぬ。輸出主導の経済成長と通貨安定は両立しないという苦い現実と対峙しているわけだ。
結局、新興国売りの流れは、内需主導型経済への構造改革の遅れと、住宅・消費者ローンという家計債務により賄われてきた国内消費者の過剰消費性向を露わにした。
その中で、アジアの一国である日本は、長期デフレによる過小消費性向を引き上げるための異次元の経済政策を採りつつある。
自国通貨=円も世界的に「安全通貨」と見做され、「通貨危機」リスクの切迫感はない。
しかし、成長戦略という名の構造改革の結果を出さねば、日本株からガイジン・マネーが流出するという点では、新興国経済に今起こっていることを他人事とはいえない立場にある。
更に、日本株が下がると、円高になるという逆相関関係が最近は顕著になっているので、日本の場合は、自国通貨が高すぎるという通貨リスクが連鎖的に生じる可能性もある。
とはいえ、新興国から脱出してきたマネーが次にわらじを脱ぐ宿として日本株を選択する例も増えてきた。優先順位としては、まずは「出口」に最も近い米国の株式、そしてマイナス成長を脱しつつある欧州の株式と、アベノミクスによるポジティブ・シナリオを描きやすい日本の株式が二位争いを演じる、というところか。
なお、新興国株に関しては、ファンドなどの短期マネーが売りに走り表層雪崩現象を引き起こしているが、長期マネーは、新興国へのアロケーション(運用配分)を一定の水準に保っている。戦術的(tactical)なポジションは売りだが、戦略的(strategic)なポジションは大きく変えない。(ちなみに、日本株は、戦術的に売買回転を増やしているが、戦略的には、慎重にアベノミクスの進捗状況を見つつ、緩やかな増加傾向である。)
新興国も日本も、そして欧州も「経済構造改革」が喫緊の課題となっている。中国も、経済成長より綱紀粛正という構造改革を優先させる「リコノミクス」を政策的に打ち出してきた。
国民に痛みを課す「構造改革」の結果を出した国の株が買われる、という意味では、「通貨安競争」から「構造改革競争」の時代に入りつつあるようだ。