2013年3月12日
ヤフー女性CEOマリッサ・メイヤー氏(37歳)は「在宅勤務禁止令」を敷いて話題になったが、フェイスブック女性COOシェリル・サンドバーグ氏(43歳)は、このたび本を出版して「女性と仕事とリーダーシップ」につき書いたことで賛否両論の議論を引き起こしている。10日には、本PRもかねて、テレビ人気番組「60ミニッツ」にも出演して、赤裸々に語っている。
ハーバード大学を首席で卒業。マッキンゼー、グーグルと渡り歩き、サマーズ米財務長官に認められ補佐役を勤め、フェイスブック社にリクルートされ、年俸は20億円を超えるという。
二児の母で、グーグル時代から一貫して午後5時半には退社して6時には自宅で子供たちと夕食を楽しむ。
ただし「この事を社内外で公言できるようになったのは、ここ2年くらいのこと。今は、自分に自信が持てるようになったので、5時半に私は退社しますと職場で言えるのだ。自宅での仕事が深夜に及ぶこともあるし、朝早く5時半に起きて仕事することもある。」と語っている。
その彼女の本では自らの経験に基づき「女性がリードすると上司風を吹かせると見られがち。男性ならそういうことはない。女性が成功すると、攻撃的すぎる、とか、やや政治がかっている、と男性・女性両方から見られる。」と述べたうえで、それでも、女性は本のタイトルでもあるLean inすべき、と説く。Lean in の定義は、野心的に職場で存在を主張すること、とされる。
女性が遅れをとりがちになる理由として、以下の統計も引用されている。求職活動にあたり、男性は応募条件の6割を満たせば応募するが、女性は100%満たすまで行動を起こさない。更に、男性の57%は昇給交渉するが、女性は7%という。
そのうえで、女性の交渉術アドバイスとして、とにかくスマイル、笑顔を絶やさぬこと。上司に礼を述べるときに、主語はI(私)ではなくWE(私たち)を使うこと。出来るだけレディーらしく行動することなどを挙げている。
また、彼女自身が経験した興味深い職場エピソードもいくつか披露されている。
妊娠中に出勤したとき、時間ギリギリなのに、駐車場が混んでいて、本社ビルから遠いところにパーキングして、走らざるを得なかった。そこで、ザッカバーグCEOに、妊婦用駐車場を設けるように提案。彼も「なぜ、そのことに私は気が付かなかったのか」と即、了承したという。
次に、彼女が社内ミーティングでパワーポイントを使いすぎと感じ、使用を控えるように通達したところ、社外の顧客とのミーティングにまでパワーポイントが使われなくなってしまった。現場からの情報のフィードバックが欠かせないとの教訓となったという。
そして、日本人にとって参考になるエピソードもある。
女性と「少数派文化の人たち」は、挙手して人前に立ち話すことや、大声で叫んで皆の注意を惹くことが苦手だ。そこは上司が察してやるべき、という。上司の部屋のドアを開けっ放しにしているだけでオープンな社風とはいえない。社員のダイバーシティー(多様性)を尊重して、コミュニケーションを促進する努力も必要と述べる。
最後に、なるほどと思った組織論。
キャリアは、梯子ではなく、ジャングル・ジムとして見よ、ということ。
ジャングル・ジムと見たほうが、選択などの自由度も高く、冒険もできるし、チーム・ワークにも馴染むので、モチベーションも上がるという。梯子では、上の人間のお尻しか見えない。
この彼女の本に対する批判の多くは、「彼女は大成功した例外的存在で、普通のキャリア志向の女性には当てはまらない」ということのようだ。
また、本を書く時間があるなら、低迷する株価をなんとかしろ、という株主からの厳しい声もある。
総じて、書評家のレビューは厳しいが、現役で働く人たちからは好感を持って読まれているように感じた。
かなり自由な企業風土の米国でも、大企業の女性CEOは、まだまだ少数派だ。SP500の対象企業の中で、女性CEOは17名という。しかし、そのうちの14名の会社の企業業績はSP500平均をアウト・パフォームしているという。
アベノミクスの成長戦略の中に、少子高齢化の中で女性労働力の活用が挙げられている。但し、日本では、まず保育所など社会インフラの整備拡充から始めねばならない。
また、実際に日本の企業内でも、徐々に女性登用の例は増えているが、「ガラスの天井」という上限に阻まれ、「出る杭は打たれる」傾向が強い。300人抜きの抜擢人事で昇進した30代前半の女性に、同僚・先輩の男子社員が「かわいがり」と称して無理難題をつきつける例など筆者も目撃してきた。男の嫉妬なども成長戦略を阻むひとつの要因であろう。
アベノミクス成功の鍵のひとつは人の心に中にあるのかもしれない。