豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. シリア情勢に揺れる市場
Page1478

シリア情勢に揺れる市場

2013年9月11日

シリア情勢は、アサド政権を支持するロシア側が先手を取るカタチで、シリア国内の化学兵器を国際管理下に置く案が急浮上。オバマ大統領も国内世論の強い拒否反応に接し、当面空爆は見合わせ、政治的解決を模索する方針を日本時間今朝の演説で明らかにした。
昨晩から、欧米市場では、シリア緊張暫時後退を受け、円は100円30銭台にまで円安となり、金は1360ドル台まで急落している。有事に買われる円と金が売られたわけだ。
ここで、シリア情勢の今後をビッグ・ピクチャーで見ると、アサド政権を支持するロシア・イランと反体制派を支持する米国・サウジ・カタール・トルコの代理戦争の様相を呈してきている。
そこには米ロ関係のミニ冷戦と、イスラム教シーア派(イラン)とスンニ派(サウジなど)の二つの対立の構図が複合的に絡んでいる。 この戦いは、ずばり、アサド側に分がある。

シリア紛争はアサド政権打倒なくしては、根源的解決とはならない。
しかし、米国は、空爆を実行するにしても、その目的は、レジーム・チェンジではなく、あくまで限定的空爆としている。
アサド政権を退場させるには、陸戦、或いは、継続的空爆が必要となるが、イラク戦争で口実の大量破壊兵器が見つからなかったという事実が鮮明な記憶として残り、国際・米国内世論は慎重だ。米国が空爆に踏み切れば、ロシアは「イラクの二の舞か」と、米国を世界の「いじめっ子」として非難するだろう。イランは、同国革命防衛隊のソレイマーニー司令官が、米国がシリアを攻撃した場合には、バクダッドにある米大使館などを攻撃するようにとの指示を、イラクのシーア派武装組織に出したことを、米情報機関が傍受している。

米国および同盟国がシリアに深入りすればするほど、結局アサド政権がサバイバルすることで、オウンゴールのように相手方にポイントを与える結果になりがちだ。万が一、アサド政権が崩壊しても、ロシア国内で、プーチン大統領が負け犬扱いされることはない。大切な武器輸出国のシリアゆえ、国家戦略にのっとり侵略者の米国同盟軍と戦うシリアを支援した。米国は醜い自称世界の警察官である、という非難声明で一件落着となろう。むしろ、プーチン大統領は米国と歩みよれば、米国の圧力に屈したと国内で批判されるのだ。だからこそ、外交的に、化学兵器を国際管理下に置くという案で、先手を取った。カタチとしては、その案を米国が受けて、空爆延期となっている。プーチン大統領の得意な柔道に例えれば、オバマ大統領が空爆という手で一本を取りにいったところ、返し技で、プーチンが「有効」のポイントを取ったというところか。そこで、オバマ大統領は、振りあげた拳のやり場に困っているのだろう。
短期的には空爆リスクが後退したが、アサド政権が存続する限り、シリア情勢は収束せず、いずれ長期泥沼化しよう。

2013年