豊島逸夫の手帖

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通貨戦争日本の独り勝ち & 金小売価格5000円突破

2013年1月11日

10日の欧米通貨市場は、ユーロ急騰に沸いた。
注目されたECB理事会では、事前予測どおり「切り札」の利下げを温存した。しかし、記者会見でドラギ総裁が、国債利回り低下傾向が顕著で、金融危機のテール・リスクは後退していることを強調。実際に、同日実施され、これも注目されていたスペイン中長期国債入札も、事前予測を大きく上回る入札額を記録。スペイン国債の買い意欲の強さを見せつけた。同10年債利回りも10ヶ月ぶりに5%の大台を割り込んできている。
これを受け、市場ではユーロが対ドル、対円で急騰。
対円では118円台をつけている。
ドル円も、昨日本欄で「いよいよ1ドル=90円への助走開始、勝負の2週間」と書いたが、早くも89円台を突破した。
こうなると、筆者流の三極通貨不等式では、ユーロ>ドル>円の構図がすっかり定着した形だ。
この現象は、「通貨戦争」で円が独り勝ちを続けていることを意味する。
ちなみに、韓国ウォンに対しても円安が進行中。日韓通貨安競争でも、日本有利の情勢だ。

しかし、こういう日本連勝は、国際的に許容されるものではない。
「日本経済がデフレ脱却してもらわないと、世界経済成長にもマイナス」との認識から、「一定の円安は止む無し」とのオピニオンはあるものの、それも程度問題だ。
どの国だって、自国通貨安が望ましい。円独歩安が仮に90円、100円と続けば、当然、「円安許すまじ」のオピニオンが声高に唱えられるは必至だ。
TPPには参加せず、黙々と自国通貨安を進める姿勢は、国際社会での日本孤立化を招く。
既に、日本関連のコメントで「日本はずるい」というニュアンスが滲みはじめたことを警鐘として受け止めるべきだろう。
東日本大震災の壊滅的被害と戦っている国ゆえ大目にみよう、との「同情論」は既に風化した。寧ろ「日沈みゆく国が、なりふりかわまず円安・輸出主導型経済復興の道を歩んでいる」との冷めた見方が強まりつつある。
他国を踏み台にして自国が這い上がろうとする「近隣窮乏化政策」は必ず政治的摩擦を生む。

安倍首相の一月訪米は、米側の「早期の首脳会談では成果も乏しい」との慎重姿勢で見送られた。安倍首相にしてみれば「日米同盟を立て直す!」と大見得切っていただけに誤算であろうが、日米通貨戦争の休戦協定も先延ばしになったことで「執行猶予」となったとも解釈できる。
円安はあくまで起爆剤。次は、日本も構造改革の痛みを共有する姿勢をアピールし、内需主導の成長戦略の具体案を提示して、国際社会との共存共栄を訴求せねばならぬ。

さてさて、ついに本日の金小売価格(税込)は5000円を突破。
そして、今朝の日経朝刊5面経済面の記事に出ているように、円建て先物金価格が昨晩11時台の欧米市場時間帯の時間外取引で4774円と、2011年9月につけた過去最高値を更新しました。私のコメントとして「ある意味でデフレからの脱却を象徴する出来事だ。金はインフレヘッジの目的で買われており、市場のインフレ期待感を表している」と引用されていますが、その通りです。
ただ、魚の目で見れば、今回の上げが当面の最後の上げ局面になるかもしれません。FOMC出口戦略示唆の一件がやはり気になります。インドの金輸入規制も当面は駆け込み需要があるかもしれませんが、中期的にはマイナス要因です。というわけで、釘を刺しておきたいと思います。

2013年