豊島逸夫の手帖

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FRB主導の円安局面へ移行

2013年3月11日

8日発表の米国雇用統計は、非農業部門雇用者数23万6千人増、失業率7.7%と、予想より大幅に改善のポジティブ・サプライズ。円相場は96円を突破し、中期的に100円も視野に入る段階に入った。
「1ドル=100円予感させる布陣 日銀正副総裁人事案」(本欄2月25日づけ)では、「厚いといわれる1ドル=95円の壁突破には十分のエネルギーを感じる顔ぶれ。95円から100円までの道程では、各国通貨当局と市場を納得させられる通貨外交と市場とのコミュニケーションの合わせ技が最も重要になる」と書いた。
そこに、米国サイドからニューヨーク株最高値更新、米マクロ経済データ好転によるドル買いという「アベノミクスへの援護射撃」が入って、円安が加速している。
FRBの量的緩和は重要なドル安要因として意識されてきたが、米国経済がいち早く立ち直りの兆しを見せ始めると、量的緩和早期終了論の台頭がドル高要因となる。
外為市場は、日米量的緩和競争の様相を呈し、「追加的通貨供給」が相対的に多いほうの通貨が安くなるという展開であった。
しかし、直近では、量的緩和からの「出口模索」を始めたFRBと、新体制で新たな「入口」に立つ日銀の緩和姿勢の違いが鮮明だ。
量的緩和競争では日米競り合いから、米国がピッチを落とし、日銀が新規スパートで抜け出した感が強い。
米国株高→リスクオン→逃避通貨としてのドルは売り、という従来の「市況の法則」も当てはまらなくなった。
アベノミクス発の円売りと米国発のドル買いの共振現象により、円安トレンドがより堅固になったと言えよう。円売りポジションを膨張させた通貨投機筋による利益確定の円買い戻しもあっさり吸収され、「調整局面」の底も浅く、時間も短く終わった。
今後の展開も、双発エンジンによる円安推進力の強化は、より堅固な円安維持性を連想させる。
なお、イタリア政局混沌が続き、ユーロにも売り圧力が強いので、欧州発のドル買いエネルギーも無視できない。
複合的な要因が絡むドル高トレンドだ。
ドルインデックスも、2月初めの79台から直近で83の水準を突破してきた。かなりのドル急騰といえる。
但し、冒頭でも示唆したように、円相場が95円から100円の行程では、アジア諸国中心に「通貨安競争」への警戒感が強まることは必定だ。就任早々、前アジア開発銀行総裁の通貨外交手腕が問われよう。
国内でも、「円安熱烈歓迎」ムード一色に変化の兆しが見られ、輸入物価上昇を懸念する「円安警戒モード」が強まっている。
7日付の日経地域ニュースでは、「円安悪影響4割、甲府商工会議所が調査、仕入れ価格上昇を懸念」と報じられている。こうなると、国内政治を意識した要人発言も「円安抑制コメント」に転じる可能性がある。
通貨投機筋の円売り攻勢も神経質となり、これまでより売買回転が早まろう。円を売った後で買い戻すまでのインターバルが短くなることが予想される。
短期的乱高下を繰り返しつつ、徐々に円相場の水準が切り下がってゆく展開となりそうだ。

金価格は、雇用統計発表前後で1578ドルあたりから瞬間的に1563ドルくらいまで一気に急落したが、ほどなく持ち直し結局、雇用統計前の水準を回復している。冷静に考えると米雇用統計も労働参加率が減少(働く気をなくし求職活動を止める人たちが増えた)という悪い解釈も成り立つのだ。
国内金価格は結局ドル円の為替次第。

さて、ここ数日、メディアは大震災から2年関連報道一色だけど、福島が第二の故郷でさまざまな現地の本音を聞いてきた私から見ると、ここぞとばかりのセンチメンタルな報道が多い感じ。
現地の本音の反応は「同情よりカネ」。そろそろ政府からの震災復興特別援助が切れる項目も多く、実は、これから一番カネの心配をしなくてはならない時期なのだ。ある意味、これまでは働かないほうが手厚い保護を受けられたケースが多かった。なまじまともに働くとかえって収入が減ってしまう。しかし、これからは本当の意味で自助努力が求められる時期にもなるのだ。
福島で仕事探せば、当面、復興関連の求人はいろいろある。震災前より仕事はあるかもしれない。しかし、県経済の本当の復興という意味では、産業基盤強化につながる動きが見られない。
被災者の再就職のためには雇用側の企業がなければ話にならない。
本音ベースで現地で話すと、表面的には故郷を復興させねば、と語る人でも、実は、長期的には県外就職の可能性を模索せざるを得ないと覚悟を決めている例も多い。そのためには再就職への再訓練などがまずは必要だ。
正直、福島の今後を考えると、希望を持てるビジョンを描くのが難しい。震災前でも、既に、経済的困窮による自殺者が多かった。
もともと、経済的に弱い県なのに、浜通り、中通り、会津の三つの地域の仲が悪い。県内の不協和音も強いのだ。
福島産野菜は安全と訴える農業関係者でも、子供や孫にその野菜を食べさせることには抵抗を感じると呟いたりする。でも故郷は離れられない。人口の移動性は低い。厳しい現実だ。
どうしたものか。実態を知れば知るほど、どこから手を付けていいのか、分からなくなる。

2013年