豊島逸夫の手帖

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金暴落は世界経済の吉兆

2013年6月27日

金価格下落加速が急ピッチで進行中だ。
今年に入って1月22日の高値1690ドルから6月27日には1225ドルまで約28%の下げである。
国内金価格(店頭販売価格)も4月の5300円台から6月26日には4200円台まで下落した。

直接の要因はFRBの緩和縮小による、金市場からの過剰流動性流出とドル高である。今週は、中国国内で短期金融市場資金逼迫が流動性ねん出のための金売りを誘発するとの観測も浮上している。
更に、欧州債務不安などのテール・リスクが後退したことで安全性を求めるマネーの金離れが生じ、米国のインフレ率がFRBが目標とする2%を下回っていることで、インフレヘッジとしての金保有の切迫感が薄れている。
金価格が急落する度に下支え役となったインド・中国の買い意欲も減退気味だ。特に、世界最大の金需要国インドが、経常収支赤字減らしのため最大の輸入品目である金の関税を8%にまで引き上げるなどの規制に乗り出したことが効いている。
高頻度取引が下げのピッチを速めていることも最近の特徴だ。チャート上の下値抵抗線を狙って、集中的な先物カラ売り攻勢が市場をヒットする例が頻繁に見られる。その結果、ニューヨーク先物市場の売り建玉は過去最大級の規模まで膨張している。(これは、市場内に買戻しエネルギーが大量に蓄積していることを意味するのだが。)

総じて、金価格下落傾向は世界経済の好転傾向を映す現象といえる。デフレ、経済不安による破たんリスクのヘッジやインフレヘッジの必要性が薄まっているということは、ゴールディロックス(熱すぎてインフレでもなく、冷たすぎてデフレでもない、適温経済)の兆候とも読めるからだ。

筆者は金投資について、「金は利息や配当を産まず、投資というより保険に近い。株を攻めの投資とすれば金は守りの資産。キャピタルゲイン狙いより、リスク分散・リスクヘッジ目的で長期保有されるべきもの。ポートフォリオの中ではあくまで脇役であり、保有比率も10%程度にすべき。じっくり持って、金が役立たないのが、ポートフォリオ全体から見れば望ましいのだ。」と説いてきた。
従って、リーマンショック、欧州債務危機と「金が役立つ」時代から、米国経済好転を背景に量的緩和の出口が視野に入り「金が役立たない」中期局面に入ったと理解している。
金の下げ傾向は2014年にかけて続くだろう。
(但し、120円以上に円安が進行すると読んでいるので、円建て金価格は上がりやすい。)
長期的には、米国経済が本格回復すれば、金の6割を消費する中国・インド経済も連動して好転することが予想され、2015年以降は、中国・インド主導の金価格上昇トレンドとなるシナリオを想定している。昨年、中国・インド経済が減速した年でも、年間金生産量の57%をこの二か国が買い占めているのだ。文化的に金選好度が強いので、需要動向を先進国の価値基準のみで判断することは出来ない。
更に、公的部門が従来は年間500トン程度、外貨準備で保有する金を売却してきたが、近年は買い越し基調となり、500トン前後の買い手に転じたことも無視できない。絶対額で約1000トンの違いは、年間生産量2800トン規模の市場の景色を変えるインパクトがある。ドル・ユーロに偏重している外貨準備の通貨分散現象の顕在化が進行中で、民間の資産運用と異なり、超長期の分散運用なので市場にはジワリとボディーブローの如く効いている。
俯瞰すれば、現在の1200ドル台が底値圏と見ている。

2013年